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申し訳ないようなやるせない気持ちになった時、僕は何も言う事が出来なかった。

僕は幻聴から始まって、それが幾つもの妄想を引き起こすのが常です。
だけど、その幻聴を基にあらゆる妄想が頭の中から湧き出てきて、一番初めに聴こえた幻聴が何を言っていたかなど、もう忘れてしまうのも常です。
以前はいちいち、スマホのメモに聴こえた幻聴をメモっていたのですが、それが意味の無い事だと気付き、メモを取るのを止めました。
それに、僕がメンタルクリニックの先生に言わなくても、先生だって色んな患者を診ているのだから、多分、僕の聴こえる幻聴の事などお見通しの筈です。

昨日の晩御飯は何だったっけか。
炒飯!と頭の中で閃いた。
いや、それよりもうちょっとベタついたご飯だったような・・・。
赤飯?
いや、赤くも黒くもなかった筈。
チーズとトマトの炊き込みご飯?
いや、白くも赤くも無かったし、そんな物食べたなら覚えているぞ。
じゃあ、あのスパイシーな味は、ドライカレー?
僕は母のいる台所に向かった。
母はキッチンには居なかった。
綺麗に整頓されたキッチン。
洗浄機の中にも食器は無く、戸棚を開けると、
綺麗に縦に積み上げられた皿があった。
「ただいまー」
と、玄関のドアを開けて、母が帰って来た。
「おー、寒い寒い」
その後に付いて、父がエコバックを両手に抱えて、入って来た。
「母さん、昨日の晩御飯、何だったっけ?」
僕の口の中は、唾液で一杯になっていた。
「それより、このバッグ持って頂だい」
「うん・・」
僕は父親からエコバッグを渡され、リビングのドアを開けて入り、台所にエコバッグを置いた。
「俺、何食べたっけ。父さん覚えてる?」
「ねえ?!、母さん、昨日の晩御飯!」
「昨日?あんた自分で作らないから、覚えてないのよ!」
「甘くて苦ーいもの、なーんだ」
父親は、やけに陽気で、齢に似合わず、しわがれ声で言った。
「答え、愛情」
何か申し訳ないようなやるせない気持ちになった。

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