悲しみとの向き合いかた
前々回の投稿から、メンタルが弱った状態から回復する力(レジリエンス)を構成する、3つの個人内要因について触れています。
今回は「悲しい」というマイナス感情について考えていきます。
「悲しみ」は「怒り」よりも厄介
前回、怒りのピークは最初の6秒間と言われていて、これをいかにやり過ごすかが重要だと書きました。
2014年にベルギーのルーヴェン・カトリック大学で行われた調査によると、人間の感情を27種類に分類して、それぞれの持続時間を収集したところ、「悲しみ」が最も長く、120時間持続するという結果だったそうです。
同調査の抜粋によると「持続的な感情は、通常、重要性の高い出来事によって誘発され、高いレベルの反芻と関連している。」と考察されています。
「悲しみ」という感情は、他の感情よりも重要性が高い要因によってもたらされ、かつそれを自分のなかで繰り返し思い出されるため、長期間持続するという側面があるようです。
短時間で鎮火する「怒り」とは異なり、「悲しみ」とは長い目で向き合っていく必要があります。
「悲しみ」の色は紅
仕事上で感じる「悲しみ」は、理想と現実のギャップによるものが多いのではないでしょうか。とりわけ、新しい職に就いたときに感じる、期待と現実との間に生まれるギャップによる衝撃のことを、リアリティショックと呼ぶそうです。
リアリティショックには、下記のような種類があります。
このときの感情を、自分視点で表すとこのような感じではないでしょうか。
同期よりも頑張っているのに、上司は認めてくれない
雑用ばかり頼まれて、ちっとも成長の機会を与えてくれない
会社への貢献に見合った評価と報酬を与えてくれない
社内の人間は、誰も私の気持ちを分かってくれない
「悲しみ」を色に例えるとしたら、陰鬱を評して「青(ブルー)」と表現されることが多いですが、私は「紅(くれない)」だと思います。
「悲しみ」を感じる紅葉の季節
前述のように自分の内側から沸き起こる「悲しみ」だけでなく、外的要因から来る「悲しみ」もあります。
春夏秋冬のなかで「悲しみ」を感じる季節といえば、秋ではないでしょうか。だんだんと日照時間が短くなり気温が下がってくると、夏の疲れや冷えからくる体調不良が多くなります。そんなとき、紅葉が色づいて落ちるさまに物悲しさを感じて、情緒不安定になったり、感傷的になったりします。
また、秋になると鼻や喉の潤いがなくなり、乾燥した空気が肺に入り乾きやすくなります。肺が乾燥すると「悲」「憂」といった感情がコントロールしにくくなり「何となく調子が悪い」「何もしたくない」といった不定愁訴が起こりやすくなります。
このように、なんだか分からないけど「悲しみ」を感じているときにも、脳は「わからないことをわかろうとする」という性質があるので、無意識に原因を探して空白を埋めようとします。
脳が不定愁訴の原因を仕事上の問題に探し始めると、フィジカルの不調に起因する「悲しみ」と、リアリティショックによる「悲しみ」を混同することもあるでしょう。振り返ってみると、先月の投稿に書いたメンタルダウンなどは、まさにこのケースだったと思います。
「悲しみ」はありのままに受け入れる
心理学者のロバート・プルチック氏は、1980年代に「感情の輪」というモデルを提示し、生物の感情を「喜び・信頼・恐れ・驚き・悲しみ・嫌悪・怒り・期待」という8つの基本感情に分類しました。
プルチックの感情の輪によると、8つの基本感情は下記のように対をなしており、対になる感情は同時に表れにくい性質があるとしています。つまり、「悲しみ」を感じている間は、対局になる「喜び」という感情は表れにくいということです。
なので、「悲しみ」を感じているときに、テンションがあがるような行動を取って「喜び」で上書きしようとしてもうまくはいきません。無理に他の感情に切り替えようとするのではなく、自己治癒力で回復していくのを信じて、時間をかけて「悲しみ」の感情を和らげていくことです。
「悲しみ」の感情は、自分でコントロールすることが難しい事態によって湧き起こるケースが多いので、抑え込むのではなくありのままに受け入れることが大切です。そして心の休息を取り、時間をかけて平穏に近づけていくことをお薦めします。
このように、「悲しみ」は5日間持続し、「喜び」で上書きすることもできず、時間を掛けて回復するしかないという、とても厄介な情動です。ですが、豊かな人生を過ごすためには、必要な感情なのかなとも思います。
冬の寒さを知ったからこそ、春の温かさに気付くことができる。そう思えるようなメンタルになったら、きっと雪解けはもうすぐです。
では。
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