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風紀は急には変わらない

ゴルフを始めたのは、たしか23歳。友人に誘われて、4万円のハーフセットを購入。あれはVictoriaだったと思う。

そのうち、近所のスポーツクラブの屋上に打ちっぱなしがあることに気づき入会。週に3~4回行ってた。ジャンボ尾崎が「一万発打ってから聞きに来い」と言ったとか、言わなかったとか。1回に80発と決め、素振りは2回まで。計算すると200回以上もクラブを振る。月に2000回以上も振ってるし、1000発くらいは打った。いよいよジャンボ尾崎に質問してもいいのではないかという頃、ゴルフ場に出た。ラウンド。

ゴルフは非常に面白かった。当たるとか当たらないとか、飛んだとか飛ばなかったとか、落ちたとか残ったとか、そういうゴルフそのものも楽しかったが、他にも面白いことがいろいろあった。

ゴルフのルールは難しいものもあったが、目的を考えるとほかのスポーツにはなさそうな考え方でそれもまた新鮮だった。

友人のお父さんは、別のルールを教えてくれた。もちろん賭けたりしなかったが、大人の知識として知っておくよう教わった。

もっとも趣があると思ったのが、エチケットリーダー。4人一組でまわるとき、誰か1人がエチケットリーダーになる。風紀委員のようなものだ。その役割だとわかるよう、胸や腕に小さなリボンの切片を安全ピンでとめる。静かにする、打つ順番を守る、土を盛る、芝生を傷めない、自然を大切に美しく使う、というようなことを、率先垂範しながらほかのメンバーにも呼び掛ける。この役割は、人によってこなし方が違ってて趣があったが、あまりうるさく言われたことはなかった。

ところが、一度驚くことがあった。忘れもしない、滋賀県のとある大きめの湖近くにある格安コースに行ったときのこと。(ほぼ言うてるやん)
二人で練習に行ったところ、混み合っているので別のお客さんと4人でまわるよう言われた。居酒屋でいうと相席だ。まったく知らない人と一緒にゴルフをまわる。こちらは20代2人。あちらは60代くらいのおじさん2人。エチケットリーダーは一人のおじさんがさっと左腕につけた。そこから地獄の18ホールだった。ルールを細かく指摘され、芝生の歩き方、マーカーのつけ方、旗の持ち方、すべて指摘された。最初は「すみませぇーん」と笑っていたが、半分まわったところで帰りたい気持ちがマックスになった。クラブハウス(iOSのアプリじゃない)に行って、組み合わせを変えてもらった。おじさんはこちらを見て言った。

「ふん、弱音を吐いたか」

帰り道に思った。
ゴルフが嫌いになった出来事として今日のことを忘れないだろう、と。

人間は急いで正そうとしたら、正しくできないだけでなく、やる気を失い、それ自体を嫌いになるのだな。

翌日その話をしたら、別の人がとても綺麗なコースに連れて行ってくれた。絶景もよかったが、一つひとつのルールやマナーを、理由とともに丁寧に教えてくれた。絶対に守らないといけないことと、マナーではあるけれど最近は厳しく言われなくなったことなど、覚えるためではなく、安全に楽しむために教えてもらった。リーダーシップを感じた。この日に聞いたマナーはほんの少しだったから、例のエチケットリーダーおじさんに叱られる状態であったことは変わらないが、ゴルフをまた好きになれた。また行きたいと思った。

インクルージョンも急いで正そうとすると人は心を閉ざし、その話題を避け、居心地の良い関係だけを維持するように思う。急いで正さなければいけないことと、時間をかけて醸成するもの。

エチケットリーダーのリボンは小さく目立たせて、笑顔で見守るのがよい。

しらんけど

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