日本が優生思想を合法化していた件

▼このごろ、いいかげんな公務員たちのさまざまな仕事ぶりがニュースになっているが、去年明らかになった大ニュースの一つに「障害者雇用の不正」問題がある。

2018年11月24日付の毎日新聞に、NPO法人日本障害者協議会代表の藤井克徳氏へのインタビューが載っていた。聞き手はジャーナリストの森健氏。この記事をもとに問題のありかを振り返っておきたい。

〈実態は偽装 強い憤り/報告書は真相解明拒絶/定期的な情報公開必要/ペナルティーで再発防止〉

〈障害者の雇用を巡り、中央省庁や地方自治体などによる大掛かりな不正が明らかになった。〉(構成・栗原俊雄記者)

藤井氏は〈1976年の身体障害者雇用促進法改正、省によっては60年の制定以来58年も不正が行われてきたことに、あぜんとしました。同時に強い憤りを禁じえませんでした。〉と語る。

実態は「水増し」という言葉にはあてはまらない。

藤井 実態は不正であり偽装です。偽装の流れには五つポイントがあります。大前提として

 1)省庁が外から障害者を雇いたくない、職場の生態系を壊したくない

 2)でも雇用率の法廷義務がある

 3)内部で対象者を探そう

 4)いなかったら障害者を作り出そう

 5)やれやれ今年もうまくクリアできた、と。

 障害者は働く能力がない、雇用すると組織の力が低下するという誤った障害者観が根本にある。〉

藤井 (雇用されれば)まず障害者にとっては社会の表舞台で自分の力を発揮できる。また省庁の各部署にいることで、政策に障害者の目線が入る。公益をもたらすのです。同時に、官公庁の現在の冷ややかで張り詰めた職場に一石を投じるなど、いろんな意味がある。

 森 (中略)10月22日、第三者検証委員会の検証結果の報告書が発表されました。驚くことに不正について「意図的に不適切な対応を行った例は把握していない」とあります。

 藤井 報告書は検証になっていません。たとえば「不適切な行為の原因」として厚労省の「関心の低さ」などの感覚用語をあげている。一番やっかいなのはこの無関心で、それが偏見や差別につながる。「なぜ関心が低いのか」こそが検証の対象だが、それを放棄している。極めて浅薄です。(中略)障害者団体の代表を検証委に入れるよう厚労相に申し入れましたが、かないませんでした。この時点で、検証結果は決まってしまったのかも。〉

▼この藤井氏の指摘は鋭い。

障害者雇用不正の問題に限らない。「関心が低いから」と言って、検証したことにして、「なぜ関心が低いのか」を検証しない、というかたちの厚顔無恥(こうがんむち)は、他の分野の「検証」でも起こっている。

こうした「検証」を行なって涼しい顔をしている頭のいいバカが、恥ずかしくてお天道様の下を歩けないと感じるような社会が、今よりもマシな社会だと筆者は思う。

▼国は公表していないが、現状でも障害者の離職率は高いという。さまざまな知恵が必要だ。

藤井 (中略)ドイツやフランスは公的機関が雇用率を守れない場合、その期間が自分たちの予算から納付金を払います。日本は、民間企業には納付金を課しておきながら、公的機関にはありません。日本の障害者雇用政策はドイツに学んでいますが、都合のいいところだけ引っ張るのではなく、政策の根幹や本質を取り入れるべきです。

  海外の法定雇用率は。

 藤井 官民ともにドイツは5%、フランスは6%。日本は民間で2.2%、省庁で2.5%。韓国の3.1%にも及びません。その低いレベルでさえごまかしていた。国際的に恥ずかしい事態です。そもそも、日本の障害のある人の総数は約936万人。人口のおよそ7.4%という点からも、現行の法定雇用率は低すぎます。

  国の、旧優生保護法にも通底する、障害者差別ですね。

 藤井 障害者への強制不妊手術は、自分で物事を主張できない、あるいはしづらい人に被害が集中したもの。最大、最悪の人権侵害だと思っていましたが、厚労省は一貫して「当時は合法」と逃れてきた。ナチス・ドイツと違って、日本の優生政策は戦争と関係なく行われたことも重要です。平時でも例えば経済状況の悪化で起こり得る。それを許さないためにも徹底した検証が必要です。〉

▼森氏の、被害者雇用の不正問題と、旧優生保護法の問題とをリンクさせる視点が重要だと思う。問いを受けて藤井氏が、日本社会の恐るべき特徴に言及している。日本は、戦時ではなく、平時に、最悪の人権侵害を行ない続けてきたのだ。

ここを深堀りするためには、「事実」を掘り起こすだけでは無理だ。どの事実を編集するのか、という「思想」が問われる問題だからだ。

被害者雇用の不正と、旧優生保護法の強制不妊は、何度でも、さまざまな角度から検証すべき問題だと思う。その検証が日本社会をよくすることはあれ、悪くすることはない。

(2019年1月24日)

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