マスメディアは互いに批判し合ったほうがいい件
▼好感のもてるコラムが2020年10月20日付の日本経済新聞「春秋」に載っていた。
▼マスメディアは、互いに批判し合わなければならない。「インサイダー」という映画の名作がある。それを見ればよくわかるが、マスメディアが悪さをした場合、同業他社に批判されることによって、そのマスメディアは、よりよくなることができる。
この原理を支えているものは、泡(あぶく)のように頼りない感情や、党派的な立場論などではない。目には見えないが、確かに存在する、たとえば、「エンドユーザーへの信義」のようなものだ。
▼今回のコラムは、日経のNHKに対する軽いジャブのようなものだが、キレている。
〈NHKは「みなさま」が好きだ。ホームページを拝見すると「月刊みなさまの声」というのがある。「視聴者のみなさまと語る会」も開いているようだ。「みなさまに支えられて」「みなさまとのつながり」……。さすが「みなさまのNHK」を標傍してきた局である。
▼低姿勢の一方で、ときどきコワモテをちらつかせるのもNHKだろう。先週末、総務省の有識者会議に臨んだ幹部が唐突な主張をした。いわく「家庭や事業所にテレビを設置したら届け出を義務づけるように制度改正を」「テレビがない場合でも届け出を」。そしてもう一つ「未契約者の氏名を照会できる制度の導入を」。
▼NHKのバラエティー番組などでは、いささか「寒い」ギャグが飛ぶことがある。これもそのたぐいかと思ったが、どうやら本気らしい。受信料徴収を効率的に進め、不払いを減らしたい一心のようだ。しかし、こんな策が世の「みなさま」に受け入れられるものかどうか。氏名照会の権限まで手にしたいとは心臓が強い。
▼かねて肥大化を指摘され、突っ込みどころの多いNHKである。性急な要望を出す前に、経営改革と受信料引き下げに力を注いだらいかがだろう。そもそも、テレビはいまやテレビにあらず。ネット配信の動画やゲームなど多様なコンテンツを映すモニターである。「みなさま」がみんなNHKを見ていた時代は遠いのだ。〉
▼「みなさま」で始めて、その「みなさま」で見事に斬っている。
筆者はこのコラムに、NHKに対する愛を感じる。
(2020年10月21日)
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