_楽譜が読める_とはなにか_科学的メカニズムを調べてみた_

「楽譜が読める」とはなにか。科学的メカニズムを調べてみた。

楽譜が読めるようになるための情報は、ネット上にあふれかえっています。

でも、そもそも脳はどうやって楽譜の視覚情報を処理し、演奏につなげているのでしょうか?

近年、科学技術の進歩により、脳の働きが以前とは比べ物にならないほど細かなことまでわかるようになりました。楽譜が読めるとは、楽器が弾けるとは、いったい何なのか、脳の動きを進化したサイエンスで明らかにしていきます!


ハイライト
・カロリンスカ研究所のチームがfMRIで明らかにした楽器演奏と脳機能の秘密
・28,000時間訓練を受けたピアニストがピアノを弾いているときの脳はどうなってる?
・楽器を練習すると、頭はよくなるの?

■楽譜が読めるって、つまりなんなの?

画像1

「楽譜が読める」とはなんでしょう?

・これは「ド」。これは「レ」と音程が把握できること
・その音の長さや強さが分かること
・楽器を操作することができること

脳はこれらの情報全てを一瞬のうちに処理し、演奏に反映させなければなりません。このとき、脳はどのように機能しているのでしょうか?最近まで、それを知る方法はありませんでした。

しかし、1990年台に入るとfMRIと呼ばれる方法が開発されます。この方法は、脳にダメージを与えることなく、脳の構造や電気現象をとらえることができる方法です。

この方法が広まったおかげで、楽譜を読んでいるときに脳がどのように機能しているかを知ることができます。

カロリンスカ研究所のチームは2006年にfMRIを使うことで、楽譜から演奏をする際に脳がどんな活動を行っているのかを調べることに成功します。

fMRIの結果によると、楽譜の処理は明確な2つのカテゴリに分かれることが支持される結果が分かりました。2つのカテゴリとは「音程」「リズム」です。

あたま

楽譜のアタマの位置は音の高さを表します。楽譜の中の音符の位置と、音程の高さ、鍵盤の位置、全て位置情報と言えます。これらは内側後頭葉、上側頭葉、吻側帯状皮質、被殻および小脳によって情報が統合されます。

音符の種類

さらに、♩♪♫♬などの音符の形によって、キーを押す長さやリズムが決まります。これは外側後頭部および下側頭皮質、左上腕回、左下側および腹側前頭回、尾状核などが処理を行います。

音程はバッチリなヒトでも、リズム感は致命的なヒトって結構いますよね。逆もしかりです。プロドラマーがうまく歌えるとは限りません。

これはつまり、音程の処理とリズムの処理が脳の別の場所で行われているからだと考えられます。どちらかだけを鍛えても、上手に楽譜を読んで音楽を奏でることはできません。


例えば、ボディビルダーが上半身だけバキバキに鍛えても、足を全く鍛えずに細いままだったらバランス悪いし、美しくないですよね。アレと一緒です。音程とリズム、両方が鍛えられてこそ美しい音楽なのです。


■音楽を練習するって、つまりなんなの?

画像4

楽譜を読む為には音程を処理する部分と、リズムを処理する部分がはっきりと分かれていることが分かりました。では次は、その能力を鍛えるために「音楽を練習する」とは何なのか調べてみましょう。

ミュージシャンが楽譜を読みながら楽器を奏でるというプロセスを考えてみます。

音符の位置や形は視覚情報です。必ず目から入ります。

そして、正しい音であるかどうかを判断するカギは、聴覚情報です。

したがって、楽譜を読むという行動は、目から入った情報と、耳から入った情報と視覚からの情報が正しいかどうかを判断する作業です。

視覚情報と聴覚情報を統合する脳の部位は既に明らかになっています。それが上側頭溝(STS)という部位です。この部位を強化することで、視覚と聴覚を瞬時に行き来できるようにするトレーニング。それこそ「音楽を練習する」という行為なのです。

Wongらによる2010年の研究によると、音楽を練習した人々は、楽譜のような視覚情報から音の聴覚的な意味をカンタンに思い出せるようになりました。これは「音程」と「リズム」の両方で確認されました。

したがって音楽を練習するとは、楽譜から音とリズムが想像できるように練習することだと言えます。


■楽譜を読む・・・その先は?

画像5

さらに、音楽が上達していくと視覚情報=楽譜に頼らずに音楽が弾けるようになっていきます。楽器をやったことのあるヒトならわかると思いますが、最初は目で確認しながら指で押さえるので必死だったのに、慣れると”勝手に体が動く”ようになっていきます。

Bengtssonらが2006年に行った研究では、28,000時間訓練を受けたピアニストがピアノを弾いているとき、頭頂皮質と呼ばれる部位の活性が低くなることで明らかになりました。頭頂皮質の活性が低くなっていることは、演奏による脳の負荷が少なくなっていることを表します。したがって、ピアニストの脳は高度な自動化が行われていると結論付けられました。

これはまさに、練習によって”演奏”が脳の中で効率化され、視覚・聴覚・触覚などの体性感覚をより少ないエネルギーで統合し、音楽に反映できることを示しています。

演奏の練習は、「情報処理」「効率化」する行為なのです。


■話が複雑になってきたのでいったん整理しよう。

ここまでのお話を整理すると、楽器を演奏するためにはいくつかのステップが必要になることが分かります。

つまり、楽器の演奏は
・視覚から得た楽譜の情報を「音程」と「リズム」という聴覚情報に変換
・指や足など触覚を、楽器の操作に結び付ける
・↑の2つを繰り返し、修正しながら正しく音楽を奏でる

3つのステップをたどります。

大量の情報を「演奏」という1つの行為にまとめるのは、練習すればするほど効率化していきます。

情報の統合が上手くなると、脳のリソースをあまり使わずとも楽器を弾けるようになります。最終的には「楽器を持つと体が勝手に動く」レベルに自動化できるのです。

さて、楽器の演奏にはこれだけ脳を使うのですから、脳が鍛えられるハズ。脳を使うと言えば学力です。楽器を弾けるようになると、学力が上がるのではないか?という考えは古くからあります。それは、事実なのでしょうか?


■楽器を練習すると、頭はよくなるの?

画像6

このギモンに答えを出すために、リバプール大学の研究チームが2016年に大規模な研究データを示しています。結果から言うと、楽器はアタマに良い効果をもたらしそうです。

研究チームは、1986年から2016年の過去30年間に実施された、質の高い38の研究成果をまとめ上げました。

これらの研究には、合計3,085人もの子どもが含まれ、「音楽の練習が学力に影響を及ぼすかどうか?」が徹底的に調べられました。

その結果、音楽の練習をすることで

・記憶力がアップ
・知能と理解力がアップ
・言語処理能力がアップ

3つのポジティブな効果が発揮されることが判明しました。

(*その効果はあまり強くはありませんでした)

これらの学力アップは、偏差値40→70のような大幅アップは見込めませんでしたが、弱いながら効果はありそうだと思われる結果でした。

まぁ、言われてみれば当たり前です。学力を上げる為には勉強をするのが一番手っ取り早いですよね。それでも、音楽をやっているだけで学力が少しでも伸びるなら、他のことに無駄な時間をかけるよりもよっぽど効率的といえます。

この研究の他にも、音楽が頭に与える影響は古くからずーっといろんな尺度で測定されており、音楽の練習したらIQには良い影響与えるっしょ!(Schellenberg,2006)のような研究がこれからもたくさん出てくると思われます。

したがって今の時代においても、音楽演奏に触れておくことは、アタマの働きを良くするためのとっておきの方法だと言えるでしょう。




おしまい

今回の記事はサークルメンバー”みこちゃん”のギモンを解決する記事でした。はがくんに調べてほしいギモンがある方は、ぜひサークルでご連絡ください!

【ツイッターについて】

ツイッターでは、noteの更新情報を発信しています。フォローしておけば、僕の記事を逃さず読む事ができます。連絡・相談等もツイッターまでお願いします。

【サークルについて】

アナタが感じる悩みを、はがくんに相談してみよう!
既にサークルメンバーの悩みを解決するような記事を出しています。


引用

Bengtsson, Sara L., and Fredrik Ullén. "Dissociation between melodic and rhythmic processing during piano performance from musical scores." Neuroimage 30.1 (2006): 272-284.

Lee, Horng-Yih, and Sot-Fu Lei. "Musical training effect on reading musical notation: evidence from event-related potentials." Perceptual and motor skills 115.1 (2012): 7-17.

Besson, Mireille, and Eduardo Martínez-Montes. "More to Explore in Music Reading as a Cross-Modal Process: A Comment on Lee and Lei (2012)." Perceptual and motor skills 116.3 (2013): 736-740.

Schellenberg, E. Glenn. "Long-term positive associations between music lessons and IQ." Journal of educational psychology 98.2 (2006): 457.

Sala, Giovanni, and Fernand Gobet. "When the music's over. Does music skill transfer to children's and young adolescents' cognitive and academic skills? A meta-analysis." Educational Research Review 20 (2017): 55-67.

私の記事は、ほとんどが無料です。 それは、情報を皆さんに正しく、広く知っていただくため。 質の高い情報発信を続けていけるよう、 サポートで応援をお願いします。