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「映像クリエイターのモジュール化」

"One of them"とはすなわち「その他大勢の中の1人」という意味です。要は、スキルを上げてもなかなか「あなたの代わりはいくらでもいる」状態から抜け出せない感じ。映像クリエイターの世界に限って言えば、機材の高性能低価格化とノウハウや情報の無料化で益々「その他大勢」から飛び抜けるのが難しい時代になってきたように思う。ネットで発信される大量の情報がシェアされ、コピーされ、クオリティの高い作品が世界中で散見され飽和していく。

数年前くらいからOUNCEのVIMEOチャンネルも、大手ウェディング映像制作会社所属クリエーターの方々が大量にフォローしてくださってます。僕たちが作例として映像を公開する理由は、あくまでも新規顧客やウェディング業界関係者(式場関係者)に向けた発信(認知)が目的なんですが、同業者には格好の教材となっているようです。中にはかなり忠実にOUNCEの作品をコピーしようと試行錯誤している勉強熱心な方々も見受けられます。

OUNCEみたいな風が吹けば消えてなくなるような極小チームの映像なんか参考にしていただいて大丈夫ですか?と申し訳ない気持ちになると同時に、スキルの模倣過程をリアルタイムで観察させていただく中での発見や気づきを多々頂いてます。決してコピーしてくれるなって話ではなく、公開してるんだから研究されることは予測できているし、そもそも僕らだってstillmotionを発見したころに少なからず真似しようとしていました。それに、大手からOUNCEに転職してくれたクリエイターも1人や2人じゃないので、悪いことばかりではないと。

で、こうやってどんどん世の映像クリエイターのレベルが相対的に高まっていくと、次に起きるのが「映像クリエイターのモジュール化」です。スキルの高い映像クリエイターがフリーランスとして色々なチームや会社の仕事を請け負うという形態が加速していく昨今、映像クリエイターはどんどん部品化し、会社やチームの「製品」を構成する「モジュール(部品)」と化していきます。すると何が起きるか?会社やチームの個性がどんどん削がれ、最終的には品質の差別化が出来なくなるので価格競争に陥りやすくなる。

実際に複数の会社やチームで案件を請け負っているフリーで腕のいいウェディング映像クリエイターはたくさんいる。彼らの作る作品に「哲学」を感じるのは希だが、当たり障りのない無難で安定している作品を作ることに長けている人が多い。そういうクリエイターに哲学がないのは当然の生存戦略だし、逆にクセが強いと雇いにくい。そして、その「哲学のない無難さ」にももちろん個体差があるわけで、全員が一貫しているわけではない。

更にそういうフリーランスを雇うチームや会社は大抵自分達の映像哲学を持ち合わせていない場合が多い。だからその品質はそれぞれのクリエイターの「哲学のない無難さ」がベースとなり、それも個体差が生じるために作り出される作品群にはブランドとしての共通する「世界観」が1ミリも感じられないのは当然だろう。作例をただのサンプルとして戦略的な意図なく発信するだけなら全然それで構わないんだろうけど、そういうところは大体価格競争になって消耗して消えていくんじゃないかと思う。大手はそもそも哲学なんていらないし、作例なんて発信する必要すらない。

遠くない将来、ヒューレット・パッカードやDELLみたいな個性のない実用的で大量生産に向いたオフィス機器を作り続けるように映像を「量産」していく会社やチームが増えていくんじゃないかな。そうなったとき、映像制作会社やチーム、映像クリエイターはどうやって「One of them」から抜け出せばいいのか?簡単にコピーできないものをどうやって創り出していくのか?目先の利益を追うことに躍起にならず、もっと考えるべきことに時間を使わないと一生「その他大勢の中の消耗戦」から抜け出すのは益々難しくなるだろう。

※この記事は2018年5月に書かれ、2021年11月に加筆したものです。

*ウェディングシネマトグラファー / 結婚式撮影の舞台裏 / OUNCE

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