早尾

しがない羊飼い。

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 しばらく会っていないYの部屋で、酒を飲むことになった。近くのコンビニエンスストアでまず買い出しを済ませる。酒はチューハイやビールを適当に見繕い、おつまみには定番どころのさきイカや、酒に合いそうな濃いめのスナック菓子を選んだ。買い出しの内容には、人それぞれの個性が宿る。僕の買い出しのセンスは、自分でもそれほど高くはないと思っているから、買い出した品をYに見せるのが少しだけ恥ずかしい。かといって時間をかけてまで買うものを吟味する気分にはなれなかったので、そのまま会計を済ませて、

    • 2021.12.05 酒に明るい人間になりたいと思った。

      昼ごろに近所のコンビニに買い物に行った。たばこがほしかったのだが、他にも何か買おうと店内を散策していた。これはいつもそうなのだけれど、買うものがひとつしかないときは会計をするのが億劫になる。コンビニに限らず、本屋などでもほしい本が一冊しかない場合は、結局買わずじまいになってしまうことが多い。なので何かほしいものはないかなと探していた。先週あたりにエクレアを買って、それをネスカフェゴールドブレンドと一緒に食べたらとても幸せな気分になったのでまたやろうかとスイーツの陳列棚の前まで

      • 自己肯定感を高めたい

        久しぶりに友人と会って「YouTube見てたら一日が終わってる」という話で盛り上がった。確かに日々ってそういう感じでずっと進んでいく。その対策法として、PCを売るという話も出たが、結局はそれをしたところで端末がスマートフォンに変わるだけなのではという結論になった。一番いいと思ったのが、家のネット回線を解約してモバイルWi-Fiを借りる、というものだ。脆弱な回線になれば、YouTubeを一日中見続ける虚無的状態に陥らないだろう。どうだろう? そういう風なYouTubeで一日潰

        • 夏の波紋

           大学の講義が午前中で終わり夕方のバイトまで時間が空いてしまった。  見上げると雲ひとつない空の太陽は目が眩むほどの輝きを見せている。  大衆食堂で山椒がひどく効いた麻婆豆腐を食べた後、本屋に立ち寄って文庫本を一冊購入した。どこか喫茶店にでも行って読もうかとも思ったけれど、そういえば僕の家の近くに大きな公園があるのだということを思い出した。井の頭公園という名前だけは知っている。  半年ほど前に大学進学のために北海道から上京してきたけれど、いつの間にか大学とバイト先と自宅を行き

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        マガジン

        • 小説
          7本
        • エッセイ
          6本

        記事

          テーブルの上にグミがあった

           家に帰るとテーブルの上に小皿が置いてあって、そこには色とりどりの小さな粒が積まれていた。赤色、黄色、緑色。それらはシーリングライトの光を鈍く反射させている。 「めずらしいね、グミなんて」  僕は小皿から赤色のグミをひとつつまんで、ソファに座って本を読んでいた同居人に言った。グミを近くで見ると熊のような形をしていた。 「ちょっと口が寂しくなったから」と同居人が本から顔をあげて言った。  手に取ったグミを口のなかに放り込み、それを噛む。濃い甘味を感じる。グミは僕の歯を押

          テーブルの上にグミがあった

          眠るきみ

          「どこにいますか?」  電話で僕はウズメさんに尋ねる。電話の向こうからは要領を得ない返答があるばかりで、一向に彼女を探す手がかりを掴めずにいた。  大型ショッピングモールのレストラン街で、平日の昼間だというのに人は多かった。年配の夫婦に、高校生のカップル、昼休み中のサラリーマンの集団。全員が世俗から解放されたような表情をしている。食事というのは忙しない日々のなかで、唯一安らぐことのできる時間なのだろう。  僕は電話でウズメさんに場所を確認しつつ、辺りを見回してみた。しかし、ウ

          眠るきみ

          2020年夏ごろに書いた小話

           アイスティーを二杯入れて、リビングに運ぶとリンカリンネがカーテンをすべて開いて窓に手を触れ、その向こうの景色を見ていた。  子供たちの声が聞こえる。  僕の住むマンションのすぐ向かいには公園がある。割と大きめな公園で、ブランコや滑り台、アスレチック遊具などの定番どころがあり、野球のグラウンドがあり、夏になると幼児が遊ぶような大きさのプールも開放される。  テーブルにアイスティーを置いて、リンカリンネの横に立ち、僕も外の風景を見てみた。  公園には子供も大人もたくさんいて、

          2020年夏ごろに書いた小話

          渋滞予想

           深夜のマクドナルドには薄汚い格好をして口を開けて寝ている中年男性や黙々とノートパソコンでタイピングしているサラリーマン、僕らと同じように終電を逃してしまった大学生などの愉快なメンバーが揃っていた。なんとなくもの悲しいその様子を見ていると何故だか「世界の終わり」という単語が頭に浮かんでくる。  なけなしの金で買ったマックシェイクバニラ味を飲んでいると、向かいに座る友人が口を開いた。 「こないださ地下鉄に乗ったときに席に座ってさ、ぱっと顔をあげたら、対面の席に座るひと全員が

          渋滞予想

          友人と会ったことと出会い系アプリについて思うこと

           友人が時期外れの帰省をしていたから、久しぶりに飲みに行った。  客が僕と友人以外誰もいない静まりかえった店内。  僕と彼は大学に入ってすぐ知り合って考えてみたらもう八年ぐらいの付き合いになる。なので近況報告が終わればもう話すこともほとんどないのでお互い最近読んだ小説のタイトルをだらだらと述べていき、面白かった小説には「これは面白かった」と一言だけ加える、ということをやっていた。  僕が村上春樹の小説を読んだ、という話から話題はハルキストになった。今年もハルキストはどこか

          友人と会ったことと出会い系アプリについて思うこと

          路地裏のリンカリンネ

           川沿いには今にもつぶれてしまいそうな木造アパートが連なっており、何だか南こうせつの曲に出てきそうな風景だと思った。先ほどまではいやに暑かったが、いつの間にか随分と涼しくなっていることに気がつく。川の冷えた空気を風が運んでくれているからだろう。  木造の建物と建物のあいだの路地に何故だか強い興味を惹かれることがある。決して薄暗いところが好きだというわけでもないのに。狭い場所が好きってわけでもない。なのに、一体どうして?  僕がいつまでも黙って路地の前に立ち尽くしていたものだか

          路地裏のリンカリンネ