わたしの名前ともういない彼らのはなし

「それに、どっか飛んで行っちゃいそうだし」

飛ぶ鳥がよかったなぁ、と言ったわたしに、母はそう言いました。それを聞いたわたしは、遠くに飛んでいきたいんだってば、と、思いながら、そうかなぁ、とつぶやきました。

大海明日香、の、名前の部分は漢字まで本名そのままです。あすか、という自分の名前がずっと好きだったし、自分は絶対“あすか”だよなと思っていたから、詩誌への投稿のためにペンネームをつけることになっても、名前はそのままにしようと思いました。
まぁせめて漢字は変えようかなって思って、ぱっと浮かんだのは飛ぶ鳥、で飛鳥。
小学生の頃好きだった『パソコン通信探偵団事件ノート』(青い鳥文庫のパスワード探偵団シリーズです。好きだった人絶対いるよね)に鳥遊飛鳥(たかなしあすか)っていう登場人物がいるんですけど、そこではじめて飛鳥って名前を知って、性別もあまり選ばない気がしたし、めちゃくちゃかっこいいなって憧れてたから。
よし、飛鳥にしよう、じゃあ名字は……って考えてたときに、冒頭の母の何気ないひとことを思い出しました。

日常会話で名前の由来の話になったとき、飛ぶ鳥の飛鳥の方がかっこよかったのに、って話したら、最初はそのつもりだったんだけど、って言われて。
なんで明日香になったの、って聞いたら、単純に名字との兼ね合いとか、父親の反対とか、そういう理由を話してくれている最後に、ぽろっと、飛んで行っちゃいそうな名前じゃん、って、笑いながら言うんです。
多分本来の理由は先に出た2つで、それはそのときの思いつきみたいなもののような気がするんですが、それがなんとなく心に残ってて、“ああ、わたしは飛べない鳥なんだなぁ”って、名前を考えている間にぼんやり思ったんですよね。悪い意味じゃなくて、ひとなんだな、みたいな。

そのままスマートフォンのブラウザの検索窓に「飛べない鳥」って入力して、出てきたのが、絶滅した飛べない鳥類のオオウミガラスだったんです。

オオウミガラスは、乱獲された上に1年にひとつしか卵を産まないくらい繁殖力が低かったりで数が減って、守られていた最後の繁殖地は天災で無くなり、さらに希少価値が上がって、また狙われるようになって。
最後に確認された個体は、つがいで、抱卵中に発見者に殺されてしまったらしいです。オスは棍棒で殴られて、巣から離れないメスは絞め殺されて。あたためていたその卵もその騒ぎで殻が割れてしまい岩に投げ捨てられて、死体が持ち帰られて、そうやって、絶滅したのだと、書かれていました。

翼が短くて飛べなくて、陸を歩くのも遅くて、好奇心旺盛で人懐こくて、水中を伸び伸びと泳ぐ、ひとの欲やいろんなものが絡み合って、絶滅した鳥。
わたしはそれまで存在も知らなかったし、もちろんこれから見ることもできないけれど、なんとなくそんな鳥が愛しくなって、大海、という名字をつけることにしました。
わたしも“飛べない鳥”だから、明日香、という名前といっしょに。


何年か前に、そんな感じでつけたペンネームなんですが、今もめちゃくちゃ気に入ってます。詩を書くにつれて自分が海や水をどれだけ源だと思っていて言葉にしたいかってことにも気付いたし、ぴったりだなぁって。

わたし飛べない鳥ですけど、いや鳥にはなれないんですけど、飛べないし、走るのも遅いし、なんならほとんど泳げもしないんですけど。
いっしょうけんめい、よたよた陸を歩いて、たまに水に沈みかけたりして、そうやってどこかでたまたま出会った宝物を拾い集めて生きていきたいな、とか、穏やかなときは考えます。大海明日香の名前が、光るように。

名前、好きだから、いろんな呼び方で呼んでもらえるとうれしいよね。ね。




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