ヨウとエムと迷子のロボット掃除機

 
ヨウが犬をすきだと言うので、わたしは猫だって犬だってうさぎだってなんだってすきでよかったと思う、いつかふたりで暮らすようになったら、ちいさな犬を迎えたりするんだろうか、そうして彼の帰りがおそい夜、わたしはその子を抱いてソファにうずくまったりするんだろうか、ほんとうはおおきい犬のほうがすきだって、いつか言ったこと、ヨウは忘れている、忘れているから、ヨウのことも、その子のことも、すきでいられる、にんげんは、多くを残したり求めたり抱えたりしようとしすぎるのよ、って、しっぽをぱたぱた振りながらくりくりの瞳でエムは言っている、ような気がする、
エムは、わたしたちが何度も通った喫茶店の頭文字、わたしが、今決めた、その子の名前。
ほら、なにもかも覚えていたくて欲しがって手放そうとしない、わたしが決めたの。
 
 
選べないことと選ばないこと、日記帳を破って捨てたときの喪失と平穏、小説の主人公のように火をつけて燃やすことはきっと死ぬまでできなくて、もしできるとしたら、自分のからだくらいなんだろう、できることとできないことを日々よりわけて生きているから、目の前で、箱の中がどんどん少なくなっていくのを見ている、と、絶望ですね、と思う、
ヨウは箱を壊して散らかしっぱなしで、いつだってそのとき気に入ったものだけ手にとって綺麗に磨きだしたりするから、わたしは、ステレオタイプの母親みたく苛立って、ステレオタイプの恋人みたく、無性に、ヨウを手に入れたくなるのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

生活になるし、だからそのうち詩になります。ありがとうございます。