「夢に見る」

 僕と貴女。
 曇った寒空の下、並んで歩く。薄く色付いた秋の葉が、疎らに落ちている道をゆっくりと。冬がすぐそこに在る匂いがした。
 手と手、繋ぐ。冷たい温もりが心地よく伝わる。
 いつものように触れる。貴女の指の隙間に僕の指を入れて強く握る。離れないように。
 目と目、合わせる。やさしい気持ちになる。
 隣に居るあなたを横目で見ると、貴女も僕を見ていた。同じだね。表情も柔らかく、何処か幼げで。
 胸と胸、触れる。鼓動が高鳴るのが響いてくる。
 僕は背中まで腕を回して、頭を貴女の肩に預ける。安らかな場所。微睡むような温かさ。
 唇と唇、重ねる。ふたりの想いが一致する。
 僕が目を閉じると、貴女はそっと口づけをしてくれた。心が痺れる。体が震える。ときめきが治まらない。治まらなくていい。
 この「今」も、やがて過去になる。できることなら神様、時間を止めて。今をずっと、ずっと続けたい。
 でも、きっと過去に変貌を遂げても、宝石箱にしまいたくなるような、輝くきれいな思い出になる。
 オレンジの陽が遠くに落ちて、小さな星たちが顔を見せる時間まで、僕と貴女は一緒に歩んだ。
 別れの挨拶は名残惜しくて、なかなか言い出せない。すぐに会えるのに。
 思いを振り切るようにして、精一杯の笑顔で「またね」。
 貴女のすべてを思い返して、今夜は眠ろう。
 夢で逢えるさ。

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