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「性格を変えたいって思ってるのは、ただ思い込みを捨てたいだけかもよ?」の話

「性格、って変えられると思いますか?」
「性格? 変えたいの?」
「そうですね。変えられるなら変えたいなっていつも思ってるかも」
「どんなふうに?」
 老人は立ち上がってポットから紅茶を注ぐ。紅茶の香りが室内の空気に混ざって、部屋があったかくなるような気がした。
「えっと、いい人になりたいですね」
「あはは、それは変わらなさそうだな」
 どうしてそう思うのかと問いかける私に、老人は紅茶のカップを渡す。
「いい人ってどんな人のことかな?」
「うーんと、なんか優しい人ですかね。優しい性格になりたいです」
「優しいっていうのは具体的には?」
「怒らないとか。助けてくれるとか」
「たとえば友達が殺されたとして、それで怒る人は優しくない人なのかな?」
「ああ、そういうのは、うーん」
 老人の質問に私は口ごもる。危険な行為をしている友人に怒る人は、友人思いの優しい人かもしれないし、単に怒らないだけの人は面倒を避けたがっているだけかもしれない。
「性格ってなんだろう、だんだん分からなくなってきました」
「いい人っていうのがなんだかは私には分からないけど、変えることは簡単にできると思うよ」
「へえ、どうやってですか?」

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