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「負ける理由がなくなれば、あとは勝ちしかないんだよ」の話
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「この世界には、競争がすごく多いんじゃないかって気がするんです。受験もそうですし、就職もそうです。創作の世界は自由なのかと思ったけど、ここにも膨大な競争があります。
海外でアート活動をしたいって思ってから、毎月二本以上は海外のアートコンペに企画書を出し続けてきました。こうしてデンマークを旅している今もです。世界のどこにいても、海外のアートプログラムの募集を見て、その土地のことを調べ、応募し続けています。
でも世界には、自分よりはるかに凄い人がたくさんいて、自分が勝てることはほとんどないです。自分よりおもしろい生き方をしている人はたくさんいて、自分より豊かな発想を持ってる人もたくさんいるから」
私は老人に言う。老人はデンマークに住むアートコレクターで、私は現地で知り合ったアーティストの紹介で彼の家を訪れた。小さな作品を集めるのが好きだという彼の家には、壁いっぱいにアート作品が飾られていた。
「競争のない世界はこの世界にはないんですかね」
よく考えてみたら、自然だって競争だらけだ。より多くの子孫を残せるかどうか、よりたくさんの食糧を得られるかどうか、より多くの日光を浴びられるかどうか。動物も植物も競争の世界で生きてるんじゃないだろうか。競争していないのは、土とか海とか、無生物だけかもしれない。
「今の私は誰かと競争しているような気はしないけど。君はどういう時に人と争っているような気がするの?」
香りの好きな老人は、変わった匂いがするものを集めながら暮らしていると言っていた。すでに仕事は引退し、好きなだけ好きなところに行きながら生活している。この家は友達のもので、交換しながら使っていると言っていた。でもそんな自由が得られる人は、この世にどのくらいいるだろう。
「コンペに落ちちゃった時はいつも。出してる回数が多いっていうのもあると思うんですが、毎月出してると、毎月何かの合否発表があるので、またダメだったのか、やっぱり自分はダメなんだって、なんか落ち込むことが多い気がしますね」
「もしかしたら競争は君自身の中にあるのかもしれないね」
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