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「正義はドラッグだ。中毒になる前にやめられるといい」の話

「誰かのことを悪く言うのは気持ちがいいからね。自分が偉くなったような気がするし、共感してくれる人がいると分かってもらえたような気にもなる。だけど、悪口はドラッグだ。快感が得られる代わりに、自分の精神を蝕んでいく」
 老人がなぜ突然そんなことを言い始めたのか、私にはすぐに分からなかった。彼はシナモンのたっぷりかかったリンゴパイをじっと見つめた後、突然そう言った。それから、ゆっくりとパイにフォークを入れ、切れ端を口に運ぶ。
「なにか、あったんですか?」
「ふふ、すまないね。昔、私にシナモンアップルパイをよく作ってもってきてくれた友人がいたんだ。彼女は噂話が大好きで、自分でつくったお菓子をもってくるついでに、私に友人たちのいろんな話をしていった。彼女は周りの人たちのことをよく観察していてね。彼女から見る周りの人たちの特徴をよく語ってくれた。
 ある時ね、私は彼女に自分のことを聞いたんだ。観察眼に優れた彼女にとって、私はどう映ってるんだろうと思ってね」
「へえ、なんて言われました?」
「周りの人を生かせる人だって言われたよ。相手のいいところをよく見て、それを伸ばせる人だって」
「おお、なんか嬉しいですね。よく分かってる」
「そう、私も嬉しかった。それから彼女は、うちに来るたびに私の話をしてくれるようになったんだが、そのうち、私の改善点を指摘するようになった」
 老人はフォークを置いて紅茶のカップを手に取り、「私はそれを止めるべきだったんだ」と言った。

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