しったかぶりして美術館に行こう (エクストリーム西洋美術史)
私は芸術大学を卒業しています。
幼い頃、よく母に美術館やオーケストラのコンサートに連れて行ってもらいました。
とは言え、芸術系の家系などではなく、母は芸術の素人で、特別何かを教えてくれた訳ではなく、私は美術館もコンサートも非常に退屈でした。
芸術大学では基本的な教養として美術史を学びます。
高校までで美術史をどこまで学ぶのかは覚えていませんが、基本的な美術史の知識を得た後は美術館での鑑賞が楽しめるものになりました。
美術史を知っていると、作品の背景を想像でき、作品の見え方も変わってきます。
少しだけの知識でも見え方が変わります。
美術館が好きな方や興味のある方は、少しだけでも美術史をかじってみるのをおススメします。
その入門として、西洋美術史を簡単に解説します。
おおまかな西洋美術史
おおまかな西洋美術史は以下のようになっています。
[古代] 紀元前。古代エジプト、古代ギリシア、古代ローマなど
[中世] 紀元前2世紀~14世紀。キリスト教の普及目的の宗教画の時代
[近世] 15世紀~19世紀。芸術家達が切磋琢磨・競争し芸術を高めた時代
[現代] 20世紀。ムンク、ピカソ、ダリなど
近世の西洋美術史
近世は世界情勢によって芸術家達の立場や求められる作品の方向性が多方面に変化した時代です。
近世はとても熱い時代で、ミケランジェロ、レンブラント、モネ、ルノワール、ゴッホなど多くの有名な画家がこの時代に活躍しました。
この時代は以下のように分けられます。
15世紀~16世紀(1400年~1500代)
・ルネサンス
17世紀(1600年代)
・バロック
18世紀(1700年代)
・ロココ 18世紀前半
・新古典主義 18世紀後半
19世紀
・ロマン主義 19世紀初頭
・写実主義 19世紀前半 (1825年代)
・印象派 19世紀後半 (1850年代)
・象徴主義 19世紀後半 (1870年代)
・ポスト印象派 19世紀後半 (1880年代)
まとめ方は色々とあるので書籍などによっては異なりますが、おおよそこの内容です。
美術館の作品の横には「作者」「作品名」「制作年度」が書かれています。
年代毎にどのような時代だったのかを知れば、より作品を楽しめますので、年代も意識すると良いでしょう。
ルネサンス以前
中世の絵画は宗教画が中心でした。神や聖人や使徒達を書く時は、人とは異なり、威厳があり超越的な雰囲気に描く必要がありました。
写実的な表現を避けなければならなかったのです。
人間性が復活するルネサンス(1400年~1500代)
15世紀と16世紀。
ルネサンスでは今までの神中心の世界観ではなく、自由な人間性が求められました。写実的な表現の為に古代ギリシアと古代ローマを手本にして、それ以上の芸術を作ろうとしました。
「ミロのヴィーナス像」と「ミケランジェロのダヴィデ像」を思い出してみてください。
どちらもリアリティがありますね。
ミロのヴィーナス像は古代ギリシアで、ミケランジェロのダヴィデ像はルネサンスです。
このように古典を参考に写実的な作品が制作されました。
そして、現代にも通じる写実的な表現をする為の様々な技法が生み出されましたのもルネサンスです。
ルネサンスという言葉は再生を意味するフランス語です。re(再び)+ naissance(誕生)でRenaissanceです。約2世紀に渡り、様々な芸術作品が生み出された時代でした。
この時代の有名な作品
ボッティチェルリ「ヴィーナスの誕生」
レオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」
ミケランジェロ「最後の審判」
ブリューゲル「バベルの塔」
エンターテインメントのバロック(1600年代)
17世紀。
バロックは光と影の明暗が特徴です。
バロックを語る時には、劇的、直截的、華麗、躍動、装飾という単語も用いられます。
多くの人が見た時に、わかりやすい事を意識した作品…所謂エンターテインメント的なものがバロックです。
ヴェルサイユ宮殿もバロックの代表です。
プロテンスタントに圧されていたカトリックは、17世紀にバロックの宗教画を用いて復興を謀ったとも言われています。
また風景画や静物画など人物のいない絵画が定着し始めたのは、この時代からです。
バロックという言葉は「真珠や宝石のいびつな形」という意味のポルトガル語バロッコ(barroco)が由来です。18世紀ではバロックを古典から歪んだ芸術と見ており、そう名付けられました。
現在ではバロック様式とは「複雑な装飾」「豪華な装飾」という意味を持っています。
この時代の有名な作品
レンブラント「夜警」
フェルメール「真珠の耳飾りの少女」
ルーペンス「十字架昇架」
ポンパドゥール夫人のロココ(1700年代)
ヴェルサイユ宮殿を建築したルイ14世が死去した後、18世紀初頭、フランスを中心にヨーロッパでロココが流行します。
ロココは、貝殻で装飾された人工石ロカイユ(rocaille)に由来し、建築物や室内装飾などから絵画などにも広がりました。
複雑な曲線を多用し、優雅、軽快、甘美、官能的である事が特徴です。男女の戯れなどのテーマの作品も制作されました。
ルイ15世の愛人ポンパドゥール夫人はロココを好んでおり様々なロココ作品を作らせました。
この時代の有名な作品
フラゴナール「ブランコ」
ラ・トゥール「ポンパドゥール侯爵夫人の肖像」
ブーシェ「水浴のディアナ」
ナポレオンの新古典主義(1700年代)
フランス革命を待たずして、ロココは衰退していきます。
ロココやバロックを否定し、古代ギリシアのような写実的な表現を理想とするようになりました。
それが18世紀後半の新古典主義です。
この時代の有名な作品
ダヴィッド「サン・ベルナール峠を越えるナポレオン」
アングル「グランド・オダリスク」
ジェリコー「メデューズ号の筏」
ドラマチックで激しいロマン主義(1800年初頭)
ここから19世紀です。19世紀は様々な主義が入れ替わったり並行したりします。
新古典主義に対抗してできたのがロマン主義です。
規範的な芸術から自由で躍動的でドラマチックな表現が特徴です。
この時代の有名な作品
ドラクロワ「民衆を導く自由の女神」
ゴヤ「わが子を食らうサトゥルヌス」
日常を写実する写実主義(1825年代)
ここまで何度も転換してきましたが「歴史画や宗教画」などが優れた芸術だと思われていた事は共通していました。
19世紀前半。それが変わります。
労働者の日常など見たままを表現しようとした写実主義が誕生します。
社会的なテーマの作品のものも作られ、芸術の立ち位置が変わって行きます。
この時代の有名な作品
ミレー「落ち穂拾い」
クールベ「絵画のアトリエ」
リアルな光の印象派(1870年代)
19世紀後半。
モネの作品「印象、日の出」から名付けられたのが印象派です。
写実主義の見たままを描くという方針の延長にあり、光の描写や空気感や質感にこだわり、自由なタッチで表現しました。
都会での日常をテーマの作品が多いです。
この時代の有名な作品
モネ「印象、日の出」
マネ「草上の昼食」
ルノワール「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」
ファンタジーを創造する象徴主義(1870年代)
印象派と並行して、1870年頃、フランスとベルギーで起きた芸術運動がありました。それが「象徴主義」です。
芸術とは「観念的」「象徴的」であるとされ、絵画では人間の内面や夢や神秘性などを象徴的に表現しようとしました。
この時代の有名な作品
モロー「オルフェウス(オルフェウスの首を抱くトラキアの娘)」
ミレー「オフィーリア」
クリムト「接吻」
自由なポスト印象派(1880年代)
印象派の画家達は公の場には現れずアトリエなどで活動するようになり、代わりに現れたのがポスト印象派です。
印象派の影響を受けつつも、タッチや技法で個性を出すようになりました。
20世紀の画家へ与えた影響が大きいと言われています。
この時代の有名な作品
ゴッホ「星月夜」
セザンヌ「リンゴとオレンジのある静物」
ゴーギャン「われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか」
まとめ
以上が大まかな近世の西洋美術史です。
宗教画から貴族を題材にした作品が増えて行き、その後、庶民が題材にされるようになりました。
最後は、画家たちは政治や宗教に左右される事なく芸術としての昇華を目指されるようになったという歴史です。
人間性が復活するルネサンス (1400年~1500代)
エンターテインメントのバロック (1600年代)
ポンパドゥール夫人のロココ (1700年代)
ナポレオンの新古典主義 (1700年代)
ドラマチックで激しいロマン主義 (1800年初頭)
日常を写実する写実主義 (1825年代)
リアルな光の印象派 (1870年代)
ファンタジーを創造する象徴主義 (1870年代)
自由なポスト印象派 (1880年代)
19世紀は「新印象主義」や「ナビ派」などもあります。ここでは省略しましたが、西洋美術史を取り扱っている書籍はたくさんありますので、興味があれば手に取ってみてください。
美術館へ行こう
西洋美術史を知っていれば美術館で作品の制作年度を見ながら
「これはバロックだから陰影が強い」
「これは貴族に描かされた肖像画なのかな」
「デッサンが狂っているようにみえるけどポスト印象派だから狙いがある」
など、様々な背景を想像して楽しむ事ができます。
また美術館に音声ガイドがあれば、ぜひ聞いて欲しいです。
深い解説をしてくれます。
音声ガイドは、自分のスマホで聞ける場合もあります。スマホの場合はアプリをダウンロードするので、美術館から帰宅した後でも聞けてとてもお得です。
歴史に思いを馳せながら作品を鑑賞してみるのはいかがでしょうか。
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