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舞台「宝飾時計」感想 ※ネタバレあり

昨年12月初旬のFNS歌謡祭で、目当てのアーティストを待つ間にたまたま見た、
高畑充希さんが歌う「青春の続き」。

バイオリンと静かな歌声が響く。数年前のドラマ「過保護のカホコ」のイメージが強かった高畑充希さんからは程遠い、違う人が憑依しているような恐ろしさと歌唱力。
同じく食卓を囲む家族には、ただのBGMにしかならなかったようで、ご飯どきの騒がしさの中、ひとりテレビに釘付けになった。


そのとき舞台について調べたものの、現実味が無くて検索画面を閉じたのだけど、久しぶりに思い出して聴いてみたら、やっぱりすごかった。これを生で聴く機会を逃せば、絶対に後悔すると思った。

思い立ったが吉日、東京の千秋楽が近いこともあって、翌日慌てて池袋へ。

当日券での観劇は初めてだった。先着順なので、とにかく行くしかない。早めに向かったつもりが、会場には既に長蛇の列が成されていて、眩暈がした。もう終わりか...一生見れないんだ......と泣きそうになりながらも、立ち見席のチケットを手に入れることができた。

テレビドラマで見る有名人が出ている舞台って、なんかテレビで宣伝されていても、チケットを取るハードルが高いし、いつの間にか販売終了してる。いつか見たいとは思っていたけど、今年は”いつか”を今日にする!そう決めていたから、だから動けた。年間目標って案外大事なのかもしれない。


2階の立ち見席、1番上の1番遠く。舞台を見下ろすと、おもちゃ箱のような舞台セット。生のエンタメを浴びる現場は、本当に久しぶりだった。

すごい声量。静寂を破る台詞、緊張するだろうな、台詞のないときって、どんな表情なんだろう。何を考えてるんだろう。いいなあ、スポットライトを浴びる板の上、他の何でも得られない快感があるんだろうな。私が一生味わえない感情。

セットの椅子を動かしながら、セリフを紡ぎながら、立ち位置を変え、小道具を片付け、時系列がバラバラになる。役者ってなんてマルチタスクなんだろう。するすると場面が変わり、滞りなく進んでいく物語。当然のことだけど、ものすごい練習量なんだろうな...と、全然物語に入り込まずに感心してしまう自分も居た。


まったく泣かせる台詞ではない、ふとした言葉が自分に刺さる瞬間が、たまらなく嬉しかった。自分のための言葉かもって思えるようなものがあると、このときこのタイミングで観られたことに意味があるなあと思う。

「誰かには正直に言っておかないと、一生本当のこと言えない人間になるよ?」

「昔できなかったことを今やるのは、ずるいなって思ったりもするんだけどさ」

お芝居の素晴らしさに圧倒されて、夜の池袋から無心で帰ったけど、結局、なんだったんだ?ハッピーエンドなのか?と、アホな私はずっと考えていた。
購入した台本を読み返して、「大事なことは簡単に言いたくないんだよね」と幼い勇大の言葉を見つけて、答え、ここか?と思ったりした。面倒くさい人間だな。
絶対に、この相手でなければ、諦めさえすれば、ゆりかは違う形で幸せを掴むことができたはずなのに。他人から見るとそう映る。ラストシーンが現実だとは思えなかった。だけど、本当だといい。ゆりかが最後に報われたならいい。

何が正しいのか分からないから喋れない、って大小路の姿を見て、正しさなんかいらないから、いいから喋れ!と観劇中言いたくなったけど、自分も何にも言えないことの方が多いよな、と帰ってから思った。

核心に触れられそうになると、口を噤むところ。大事なことは言いたくない、言葉にできない、だけどそれはずるいと言われる。言えないことっていっぱいある。ごめんゆりか。


ゆりかは変わることができていたと思う。「あなたが素直じゃない分、私はこんなに素直になったんだよ!」、「あなたの複雑さのためなら、自分の複雑さなんてどうでもよくなれる気がした」とか、ゆりかは変化していっているのに比べて、大小路はものすごく少しずつしか変われない。お互い相手を神格化してしまう、神聖視してしまう、恋だよな、愛だよな、みたいなことを思いました。


観劇から時間が経てば経つほど、大小路は幸せだったのか?ということばかりが気になってしまう。誰にも本当のことが言えない人間は、幸せになれないのかな。いやだな。

1回目に聞いて笑えていた台詞が、2回目に聞くと笑えない。結局その人の内側を知らないと、言葉の意味なんてこれっぽっちも正しく伝わらないんだな。そういう仕掛けも面白い脚本だった。笑いどころもちゃんとあって、重いだけじゃないのが心地良かった。


観劇のきっかけとなったあの歌は、テレビの何倍も素晴らしくて、涙が止まらなかった。高畑充希さんの紡ぐ音で震える鼓膜、揺れる会場、無条件に涙がボロボロ出た。幸せで、嗚咽が漏れそうなくらい良かった。

帰宅後に、どうだった?と聞かれても、「よかった」しか言えなかったけど、本当にめちゃくちゃよかった。高畑充希さんに完全に惚れてしまい、フォトエッセイを買って帰った。
最高だった。観に行ってよかった。こういう心が震える瞬間が、この先何度でも味わえるといい。

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