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『夜明けのすべて』読了の日記

PMS(月経前症候群)とパニック障害、どちらも私には他人ごとではなかったので、それぞれの病気に悩む人の話「夜明けのすべて」を自分のための作品かも、と思って手に取った。


瀬尾まいこ先生の名前は書店で何度も見掛けたし、知ったタイトルもたくさんあるけど、読むのは初めてだった。とにかく読みやすい。
あらすじは重く感じるけど、作品自体に重苦しい空気はほとんど無い。会話がぽんぽん進み、下手に人間関係がこんがらがったり、すれ違いが起きたりしない。

物語中に一度落ちる展開(関係性がマイナスになったり、嫌な事件が起きたり)が発生するのは物語の起承転結的によくあることだけど、私はその一回の展開でハラハラするのが結構しんどいから、安心して読める作品なのが良かった。

と言っても、初見じゃそんなことは分からないので、何度か会話の雲行きが怪しくなると、「これはこの人が勘違いをして、ややこしくなるんじゃ......」とか「良かれと思った行動が原因で喧嘩になるのでは......」とか一人で想像して何度もハラハラした。
結局、登場人物たちは私が思っているより穏やかで優しかった。



この作品は、PMSで自分の感情をコントロールするのに苦労している女性と、パニック障害に苦しむ男性の話。
二人は同じ職場の同僚なんだけど、まずこの職場の人間たちが、良い人すぎる。私もここで働かせてください!って感じ。現実はこんなに理解もないし融通も利かないし良い人ばかりじゃないし......って何回も思う。
でもフィクションの世界くらい、これくらい優しくあってほしいよね。みんなこれを見習っていこうね。私ももっと穏やかな人間になりたいよ。



まあまあ、とにかく、この二人がお互いのことを考えて行動して(自分のためのときもあるけど)、それがちゃんとプラスに働く。良く思われようとか、嫌われたくないとかのノイズが無いために、自然でいられる。めっちゃ羨まし〜って思う。お互いがお互いの病気にときどき土足で踏み込む瞬間があってヒヤヒヤしたけど、別にそんなに二人とも気にしてなくて、「私が一人でヤキモキしていたのか、おせっかいでごめんよ......」という気持ちになった。

二人の軽やかな会話を、作中の職場のおばちゃんおじちゃんと同じようにニタニタしながら聞いた。仲が良いね。素敵だね、眩しいね......

それでも、この二人が恋愛の形にならないのがよかった。恋じゃなくても、自分を自分のまま、相手を相手のまま好きになることができるのが、物語の後がどうであれ、そういう描写が最後まで無かったところも素敵だった。
自分のままならなさが恋愛によって大丈夫になるなんてことは、全然読みたくなかったから。



漫画みたいな軽さとポップさがありながら、やっぱり発作中の描写の細やかさなんかは文字だから書けること。自分が苦しくなっているときを思い出して、一緒に冷や汗をかきながら読んだ。少し前に公開された映画を観るか迷ったけど、とりあえず小説を読んでおいて良かった。



特別なことは何も起きないし、名言も出てこない。でもちょっと、悲観せずに生きられたら良いのかも、人に話したり外に出ることを怖がらずに、行動できたら良いのかも。
私がどうしようもない私のままでも、人のことを好きになることができると良いな〜。
そんな風にじんわりあたたまる作品だった。

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