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〈Q&A〉第2回大豆生田先生と考える「こどもの道具」としてのICT

伊佐中央幼稚園 作本先生と別海くるみ幼稚園 加藤園長に、セミナー参加者からの質問へのご回答をいただきました。ICT活用にとどまらず、保育への考え方など丁寧にお答えいただき、必読の内容です!ぜひ参考になさってください。

Q:みなさん、どのように端末を揃えていらっしゃるのでしょうか?子どもの興味を満たす程に準備をするのが難しいです。

伊佐中央:1クラス(20人程度)にipad2~4台置いています。
別海くるみ:オープンルームにiPad7台を置いています。

Q:保護者へ保育を伝える際はどのように伝えているのか教えていただきたいです。

(伊佐中央 作本先生)
まず、百聞は一見に如かずということで、入園予定の保護者の方にビデオや写真で、ICTがどう使われているのか見ていただいています。使う際の約束事や園がICTを保育環境として置くねらい(主にはICTを使って自らも新しい価値を発信できるという能動的な体験を積み重ねてほしい)も最初にお伝えします。

入園後は、参観日などで親子でICTを使った活動の体験をしていただくこともあります。子どもたちが人前で発表したり、友達と協力したり、新しいものを作り出したりする過程で出てくる道具の一つとしてICTがあることを実際に見ていただくことは何よりICT利用を理解してもらうための一助になると思います。
幼児期にICTとの向き合い方を学ぶことの意義を感じてもらえるのではと思っています。

(別海くるみ 加藤園長)
先行して園との情報共有のために、各ご家庭に1台iPadを無償貸与していますので、きっつ(園児が使うiPadとアプリ)導入時点では、「ICTの保育環境を導入します」とのお知らせ程度しかしていません。その後のドキュメンテーションで伝えるべきことが出てくるはずなので、見えてきた事例で伝えていこうというスタンスです。

 ところが発表事例にありましたように、最初は保育者にも恐れがあったようです。導入後のドキュメンテーション配信は、ICTが事例として取り上げられる頻度はそんなに多くなかったと反省しています。
 回収事件があった後、画面の先の興味関心をもっと良く見とって行こうと話し合われたことを受けて、子ども達のつぶやきや、話を聞きながら、画面の先、更に先にある興味関心や心の動きを見とることに努めたところ、以前は見えていなかった子ども達の試行錯誤やチャレンジ、葛藤や発展があることに保育者自身が気づき始めました。

 一見繋がっていないように見える外遊びとの繋がり、YouTubeを見ることが好きで消費者スタンスだった子どもが、突然YouTubeをみて覚えた踊りや工作を今度は自分たちで発信したいという、発信者マインドに変化したこと。文字に関心を寄せる子が増えていること。子ども達が心の底から自由に描いた落書きや写真の加工、コラージュが素晴らしい芸術作品であることなど、数え上げたらキリがありません。
 そして自由に使わせても、当初の懸念にあったようなiPadばかりをやり続ける子はおらず、iPadで刺激を受けた結果、製作に没頭する子や、外に出て何かの運動遊びを試し始める子。自分で使用時間を決めて切り替えている子。皆んなが仲良く順番に使えることに細心の配慮を心がけている子など、心配よりも子ども達に保育者が教えてもらうことが増えました。

 それらが見えてきたことにより、「ドキュメンテーションでICTの取り組みを配信したい」という保育者の強い想いが芽生えたようで、今ではかなりの頻度でICTの取り組みと子どもたちの育ちの姿が保護者に配信されるようになりました。
 ICTを使っている子ども達が何を感じ、何に迷い、何に発展し、何を協力し、何に挫折し、なぜ立ち直ったのかなど、画面のその先が保護者に伝わると良いなと願っています。これらの点では日常の他の保育と変わるところはありません。

 導入当初は懐疑的だった保護者も多数いましたが、今ではその一部の方が、いわゆる応援団としてのスタンスに変わり、お迎えの時などで保育者に「すばらしい取り組みです」「くるみ幼稚園に通わせてよかった」「批判もあるかもしれないけど頑張って」などの言葉をかけてくれるようになりました。

 ICTも発展途上、私たちの保育も発展途上です。子ども達と一緒に保育者も成長させてもらっています。ご質問ありがとうございました。 

Q :どちらの園さんでもうかがいたいのですが、それぞれの活動、たくさんの時間がかかるものだと思います。わたしの園が日常の保育もしっかりとカリキュラムがある風なので、時間の抽出という面で課題を抱えているのですが、1日や1週間の時間の流れ等を簡単に教えていただけるとありがたいです。

(伊佐中央 作本先生)
子ども達は登園後、支度が終わると各自自分の興味のあるコーナーへ行きます。全員登園した頃に一度朝のサークルタイムをして1日の流れを確認したり、子どもたちと決めたりします。(例)◯時までは部屋で過ごして、◯時に外へ出るなど。

給食の時間は固定、朝と帰りの全体サークルタイム、月に数回外部講師による全体活動がありますが、通常時は給食の時間以外は各々、興味・関心があることをして過ごすことが多いです。行事もありますが、そのための練習という概念はないので遊びの中やプロジェクトの中に入り込んでいると思っていただけるといいかなと思います。

(別海くるみ 加藤園長)
別海くるみ幼稚園は5年ほど前まで一斉保育中心の保育でした。平成27年4月から認定こども園に移行しことがきっかけで、保育を見直そうという動きが始まり、少しづつですが子ども主体の保育に変える努力を保育者と共に続けています。

その取り組みの中でいくつかの課題が見えてきました。一つは設定(保育)が多いと、遊びが細切れになってしまうということです。朝の自由遊び、朝会、午前の設定保育、昼食、午後の異年齢保育、お帰り前の読み聞かせ、預かり保育・2号児保育と少なくとも7回も保育の切り替え場面がありました。これらを整理しつつ、保育を変え始めたのが5年ほど前ということになります。

今も少しづつ変えている最中ですが、現在のデイリープログラムを簡単にご紹介すると、朝の自由遊びが8:00から11時まで。9時からはクラス担任が希望したり外部講師が来たりする日はクラスによる一斉・設定保育も可能です。
11時からはクラスに分かれて朝会・サークルタイム。11時30分から12時30分頃まで、カフェテリア形式による昼食、クラスや自分のタイミングで自由に食べ始め、食べ終わった子どもから午後の自由遊びに戻ります。
勿論午後もクラス担任が設定保育を計画することも可能としています。また保育者設定による異年齢コーナ保育も盛り込みます。1時30分頃からクラスに分かれ、振り返りや明日の遊びについてサークルタイムなどで話し合います。

改善された点は、朝の遊び時間が長く取れるようになったこと、午後の自由遊びにつなげることが出来ること。サークルタイムを活用して、子ども達の遊びに対する興味・関心が途切れないようになってきていること。子ども達も日を跨いでの遊びの見通しが立つようになってきていると感じます。

 1号認定児が降園の後は基本的に自由遊びとなっています。

 この流れが毎日の基本です。しかしながら、今でも改善の途中ですので、今後、変わる可能性が大きいです。子ども達と話し合いながら、より良いデイリープログラムを考えていきたいと思います。
 参考になれば幸いです。ご質問ありがとうございました。

Q:作本先生、石プロジェクトの期間中は、全員が夢中になっていますか?クラスの中で、興味関心に温度差はありましたか?関心を持たない子どもがいた場合は、どのように過ごしていますか?

(伊佐中央 作本先生)
石プロジェクトの例だけではなく、園のプロジェクト活動全体に関する話としてお答えさせてください。子どもの興味は色々あるので、クラスでは通常、数個のプロジェクトが同時進行しています。
例えば石のプロジェクトの時はもうひとつ、きのこのプロジェクトがありました。どちらも数人の興味から始まり、最終的にはクラス全体に広がっていったので、もし子どもたちに尋ねたらどちらの経験も語ってくれると思います。石に興味を持っているからといって毎日プロジェクトに関することをするという訳ではなく、朝のサークルタイムでその日の予定を話合うのですが、「昨日の続きで石を調べる」「制作できのこを作りたい」「外で遊ぶ」など子どもによって様々です。
ただ、例えば園庭で遊んでいる時も、給食の時も、絵の具の活動ときも自然と石やきのこに繋がっていったりするので、全く違うことをしているとも言い切れません。
「園庭で遊んでいるうちに自然ときのこ探しになった」とか「英語教室の時に石の名前を英語で教えてもらう」とか、石を調べている時に「これ、僕が持ってきたきのこに似てる」など、プロジェクトが度々クロスオーバーすることもありました。プロジェクトをより深めていくために保育者が様々な五感を使った活動や対話にテーマを意図的に含むこともあります。
そういった1日の活動のことを帰りのサークルタイムで友達が話していたり、自分は参加していないけれど友達の面白そうな活動がドキュメンテーションとして部屋に掲示されていたりすると、それを見聞きした子が次第にプロジェクトに興味を持ってくれたりします。
「あの子はあんまり石に興味ないのかな」と思っていたのに、ある日突然「この石好きなんだ」と伝えてくれたりする姿を見ると、ドキュメンテーションや活動を共有するサークルタイムがプロジェクトを支えてくれていると思います。ただ、プロジェクトは長くて1年~2年続くものもあれば、子どもの興味や学びが広がらず、途中で切り上げるプロジェクトこともあるということもお伝えしておきます。なので興味関心の温度差はそこまで気にせず、その子が興味を持ったタイミングで自主的に活動に入ってくれた時がベストのタイミングだと思っています。
また、プロジェクト以外のことでもその子が好きなもの、夢中になれるものが見つかっていれば、問題ないと思います。その子の個人プロジェクトとして探求しながら、全体のプロジェクトとつながっていく可能性もあります。

Q:別海さん、アプリを入れた端末、ドキュメンテーションをした端末、同一ですか?ちょっと心配です。

(別海くるみ 加藤園長)
同一です。iOSを初期化して再使用しています。
具体的な心配が書かれていませんでしたので、お答えする内容がずれているかもしれません。もしウイルス感染がご心配であれば、初期化により対応しています。回収後に使用を再開してからはインストールについては子ども達と保育者が相談し、ともにアプリの内容やセキュリティーなどを検討しています。これも学びの重要な場面になっていて、「怪しいからやめておこう」とう発言が出たり、対象年齢を見て子ども達が自分でインストールを止める姿が見られるようになるなど、子ども達にも判断する力が育ちつつあります。

また、ドキュメンテーションアプリはWEBにて編集・配信するアプリなので、iPadには個人情報が保管されておらず、個人データの抜き取り・流出などへのリスクは極めて低いものと考えています。

研修にてお話をさせていただいた通り、何処を禁止ラインにするか、どこを端末で設定するブロックラインにするかは重要な課題です。ICT環境も日々進化しているので、導き出した答えも一時的な通過点に過ぎないことになります。
 子ども達の声や意見を聞きながら、保育者と子ども達が共に取り組み共に学んでいきたいと思います。
 ご質問ありがとうございました。

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