〈セミナーレポート〉第2回大豆生田先生と考える「こどもの道具」としてのICT
2023年5月18日(木)に玉川大学の大豆生田先生をお迎えし、「『子どもの道具』としてのICTを考える」保育セミナーを開催しました。
今回も園さんにご登壇いただき、実践事例をもとにさまざまなトピックを議論しました。
子どもたちの生活に非常に身近な存在となったICT。保育・幼児教育のなかでどう取り扱えばよいのでしょうか。保育に携わる皆さまおひとりおひとりに、ぜひ考えていただきたく思っています。職員室での語り合い、研修のテーマとしてぜひご活用ください。
※こちらからセミナー動画をご覧いただけます。
KitSプロジェクトの趣旨説明(2分30秒〜)
まずはスマートエデュケーション代表の池谷から、今回のセミナーの主旨を説明いたしました。
今、ほとんどの子どもたちは、家庭でスマホやタブレットを触っています。しかし、その多くはYouTubeやゲームなど受動的な体験にとどまっています。そんな姿を見て、大人もICTに対してネガティブな印象を持ってしまっているという状況ではないでしょうか。
ICTは本来は問題解決や、自分を表現するための道具です。子どもたちが興味を持つからこそ、大人は「主体的で対話的で深い学び」につながるICTの活用方法を考えなくてはなりませんし、五感を刺激したりアナログな体験と往還が起こるような使い方を子どもたちに提案していかなくてはなりません。
先生方が時代に合った新しい道具を活用して、新しい保育に挑戦する。その後押しをしたいという思いから、私たちはこのようなセミナーを開催しています。
さて、本題に入る前に、今回のプロジェクトで出てくる「ICT」の定義もご紹介しました。保育現場でのICTというと、登降園管理やドキュメンテーションなど、先生が使うデジタルツールという印象があるかもしれません。今回はそういったものではなく「こどもの遊び」の道具としてのICTにフォーカスします。アプリだけではなく、電子顕微鏡やプロジェクター、インターネットなども含まれます。
2023年2月には、「第1回 大豆生田先生と考える『こどもの道具』としてのICTセミナーを開催しました。第1回の内容は、ぜひこちらでご覧ください。
イントロダクション 大豆生田先生(7分25秒〜)
続いて、大豆生田先生の「保育におけるICT」を考えるうえでのポイントについてお話しいただきました。
「AIと人の決定的な違いは、人は身体を持っているということ。したがって、身体を通した遊びや学びが非常に重要だ」と大豆生田先生。特に乳幼児期には、五感や身体性を通した学びが大切だということを、改めて強調されました。
「家庭で経験しているようなYouTubeやゲームに限られたICTの使い方ではなく、これまでも大事にされてきたような主体的で協働的な学びの道具として、豊かに活用していくことを考えなくてはいけない」と大豆生田先生は語ります。
ICTを活用することでデメリットが起こる可能性もあることをふまえたうえで、知恵をもって道具の使い方を子どもに提案していく必要があります。「今回発表する二園の実践はその重要な手がかりになる」と締めくくられました。
ここからは、園での子どもたちの遊びにICTを活用されている2園の先生に実践事例をご紹介いただきました。
事例紹介①山口県 伊佐中央幼稚園 (11分55秒〜)
伊佐中央幼稚園のある山口県美祢市は、日本最大の鍾乳洞である秋芳洞やカルスト台地があり、化石もたくさん発掘されるなど、地質的にとても特徴のある町です。
今回は、そんな環境ならではの「石」のプロジェクトでのICT活用事例をご紹介いただきました。
年中さんの時、登園時に必ず涙が出ていたというAくん。園庭に落ちている石を拾うと心が落ち着いていたそうです。そんな姿を見た先生はAくんと一緒に石探し。そこから「石」の探求活動がスタートしました。
石の名前を図鑑で調べたり、マイクロスコープで観察してみたり。調べて終わりではなく、子どもたちのつぶやきを先生が丁寧に拾いあげることで、ロウでの宝石作りや、博物館への遠足、マイクロスコープの画像を使った図鑑作り、宝石地図作り、石灰岩を溶かす実験、そして最後は石屋さんごっこまで、多岐にわたる活動へと広がっていきました。振り返れば、卒園までの1年半にわたるプロジェクトへと発展していたそうです。
ICTを使うことが目的ではなく、子どもたちの興味関心から生まれた遊びや学びのなかでまさに「道具」としてICTが活用されている様子は見事としか言いようがありません。ぜひ、動画で事例をご覧ください!
大豆生田先生講評 (28分00秒〜)
伊佐中央幼稚園さんの事例に対し、大豆生田先生から講評をいただきました。
今回の石のプロジェクトでは、ICTを活用しながらも子どもたちの体験が必ずアナログの実体験に返ってきている点、子どもたちの声や疑問がいろいろな実験や試行錯誤につながり、その延長線上にICTが使用されている点を大豆生田先生は大きく評価されました。
iPadを使って調べれば、すぐにその石がどんなものかの答えは出ますが、そこで満足してしまえば、石に触れたり、この石はどんなものだろうと空想を広げたりする体験が失われてしまいます。「どこでどうICTを使うか、という選択が非常に重要になることを改めて考えさせられる事例だ」と語る大豆生田先生。ICTという道具をいかに使っていくかという、教師側の教材研究が必要不可欠だと強調されました。
事例紹介② 北海道 別海くるみ幼稚園(36分30秒〜)
別海くるみ幼稚園のある別海町は、北海道の東に位置し北方領土からわずか16km、生乳生産量日本一の酪農王国です。「子どもの好きを最大限に大切にする保育」を理念として掲げ、子どもの創造力や主体性が育まれる環境づくりに大変力を入れています。
そんな別海くるみ幼稚園が保育にICTを導入したのは2022年6月のこと。
子どもたちの力を信頼し、ICTを「道具」として自由に活用してもらいたい、そんな思いを強く持つ一方で、新しい道具に対する不安も大きかったという先生方。さまざまな試行錯誤をしながら、今も子どもたちと一緒に歩み続けています。
今回は、子どもたちの遊びや学びが豊かになる保育環境を実現すべく、文字通り奮闘されてきた様子を、包み隠さず紹介してくださいましたが、実は別海くるみ幼稚園さんでは、ある事件が起きて、プレイルームに置いて自由に使ってもらっていたiPadを即座に回収することになりました。なぜ事件が起きたのか、そこからどう対応したのか。
ここまで挑戦できるのは、先生方の優れたチームワークと子どもを信じる気持ちがあるからこそ。「ICT、どうしたらいいんだろう?」と悩まれている先生方必見です!
そのほか、子どもたちがICTで作るドキュメンテーションの事例などもご紹介いただきました。
大豆生田先生講評 (52分50秒〜)
別海くるみ幼稚園さんの事例に対し、大豆生田先生から講評をいただきました。
別海くるみ幼稚園の先生方の雰囲気のよさ、チャレンジしていこうという気持ちがとてもよく伝わったという大豆生田先生。そのうえで、今回発表された事例を踏まえ、ICT導入については次の3点を考える必要があるのではないかとお話しされました。
① ICTを活用するということは、インターネットにつなぐということ。インターネットにつなぐということは、世界と即座につながるリスクもあるのではないか。
② ゲーム性の高いアプリについて、どう考えるか。
③「子供の身体性・興味関心とつながった遊び」と「便利に使える道具としてのICT」。この関わりが適切であるかどうか。
これらについての正解はなく、大人一人ひとりが考えなくてはいけない課題である、と大豆生田先生はお話しされました。
ICTの上手な取り入れ方 (1時間00分〜)
ここまでの2園さんの事例を受け、いろいろな園さんがどのようなICT環境を整備しているのかを、スマートエデュケーション池谷からお話しいたしました。
保育室に置く、アトリエに置くなどiPadの設置状況もさまざま。またICTをスムーズに保育に取り入れるためには、どういった準備が必要かもご紹介いたしました。
ぜひ参考になさってください。
パネルディスカッション (1時間7分20秒〜)
続いて登壇者によるパネルディスカッションです。とても濃い時間になったので詳しくはぜひ動画をご覧ください。ここでは一部をご紹介します。
伊佐中央 作本先生:ICTを道具として使ううえで、保育者の共通理解や必要なスキルを園全体で浸透させるには、どのような研修・実践をしていけばよいのでしょうか。
大豆生田先生:ICTを保育の中で使うこと自体がかなり新しい取り組みなので、実践を園の中で共有していくということが、一番の研修になると思います。どういう時にどういうものをどう活用すると、子どもたちの豊かな遊びや学びにつながったのか、そのモデルケースを共有することはもちろん、「そこでICTを出さなければどうなったのか」を議論することも重要です。園の中でいろいろなことを話せるような風土づくりも大切だと思います。
大澤:子どもの遊びや学びの道具としてICTを活用するうえで、先生方が心がけていることはどんなことですか?
伊佐中央 作本先生:ICTは便利ですが、考える力を奪うリスクもあると思います。子どもが「なんでだろう?」と言ったときに、周りにいる大人が日頃から、自分で考えて答えにたどり着くまでの面白さ、試行錯誤の面白さにを伝えられるような保育プロセスを作っていくことを大切にしています。
別海くるみ 加藤園長:当園では基本的に子どもたちに自由に使ってもらって、大人と子どもが一緒にICTとの付き合い方を学んでいくというスタンスなので、制限は最低限にしようと思っています。心配だからといって、必要のないところまで管理しすぎないということを大切にしています。そのためには、遊んでる姿を表面的にとらえるのではなく、画面の先にどのような興味関心が生まれてるのかということを、しっかりと見取るようにしています。子どもの姿を丁寧に見つめたうえで、その姿が望まない方向にあるということであれば、禁止するなどの対策をとっています。
大澤:2園さんともに、支援の必要なお子様がICTを活用することで、新しいコミュニケーションが生まれたという事例があったので、ご紹介お願いします。
(1時間19分4秒〜)
伊佐中央幼稚園さんの事例
別海くるみ幼稚園さんの事例
大豆生田先生:人とのコミュニケーションは難しくても、数字やパターンなどの規則性が得意な子がいます。自分の得意なことでコミュニケーションができる、その手段を見つけられることで、子どもの世界はぐっと広がってきます。一見iPadばっかりやっていることはよくないのではないかと思いがちですが、世界が広がっていることもあるわけです。
ただしそのときに重要なのは、それをちゃんと理解している大人がいるということです。その子にとっての大事な世界と他の子をつなぐ仲介者ですね。
この子の中にこんな豊かな世界があるということに先生が気づき、それを他の子どもと共有することで、人とのコミュニケーションが苦手だとされていた子たちが他の子どもから理解され、少しずつコミュニケーションが始められます。そうやって自分の世界を少しずつ、外に開き始められるのです。
その他の質問
セミナー中には、参加者の皆さまからたくさんご質問をいただきました。伊佐中央幼稚園さん、別海くるみ幼稚園さんからご回答をいただいております。
大変丁寧にご回答くださっていますので、ぜひこちらのページもご覧ください!
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