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キーボード

QWERTY配列のキーボードを、日々カタカタ叩いている。見わたしてみると、開発部や営業部や編集部や管理部にいるどのメンバーも、ディスプレイを見つめ、ひたすらにキーを叩いているようだ。エンジニアはプログラムを書いて、営業はクライアントにメールを書いて、編集は新しい記事を書いて、管理はEXCELのセルに数字を打ち込む。耳をすませてみると、タタタッていう軽やかな音から、ダッダッダッと1つ1つ思いを込めて押し込んでいるような音、かすかに聞こえるカタカタの中に不意に放り込まれる大きなターンという音まで、みんなさまざまなリズムでキーを押していく。パーカッションのオーケストラのようだ。それぞれが奏でる打鍵のリズムに耳を澄ませていたら時を忘れ、いつのまにか夕方になってしまった。

キーボードにこだわりだしたのは、創業してから。投資銀行の時代は会社から与えられたデスクトップパソコンで、キーボードはDELL製とかだった記憶がある。ファンドに転職するとレッツノートに変わったので、それで仕事をしていた。独立・創業してしばらくは、営業・編集・管理とエンジニア以外のすべてをやっていたので、とにかくキーボードを叩く量が半端なく、PCお仕着せのキーボードだとつらくなる。調べてみると、東プレのリアルフォースという代物があるらしい。キーボードなんてどれも同じだろうと半信半疑で買ってみたら、まったく世界が違った。いままでお付き合いしてきたキーボードはなんだったんだというくらい、タッチ1つ1つが気持ちよくて、幸福感につつまれるのである。もう君だけしか見えないとばかり、他のキーボードを押入れに放り込んだ。

しかしふと思い立ってHHKB(Happy Hacking Keyboard)に浮気してみると、これがいかにも良いキーボードなのだ。キーをおすと、脳の快楽スイッチまで同時におされてしまうような感覚になる。文字を書くために打鍵するのではなく、1つでも多く打鍵を味わうために文字を作るような、そういった気持ちよさがあるのだ。仕事マシンをMACにしたこともあって、このキーボードをメインにすることにした。正確に言うと、HHKB Professional2 Type-S(英語)である。間違って、無刻印というキーボードにキーの表示が無いものを買ってしまったものだから、記号をうつときはいつもおそるおそるである。()はしばしば誤打するし、アットマークやアスタリスクも心もとない。買い直すには高すぎるので、たまにキー表示をPCで映しながら叩く羽目になっているが、それでもこの気持ちよさに勝るものはないみたいだ。

これを書いているのは2017年に発売されたMacBookProにビルトインされたキーボードなんだけど、ペチペチという音がよく響いて、これはこれで許せてしまう。個人的にはiphoneのフリック入力に、もっと気持ちよさを求めたいところだ。

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