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“同語”──共同言語を求め、多様性の空間を創るために(ハッシュタグだけじゃ始まらない)

3月18日刊行予定『ハッシュタグだけじゃ始まらない――東アジアのフェミニズム・ムーブメント』(編著:熱田敬子/金美珍/梁・永山聡子/張瑋容/曹曉彤)は、中国・韓国・台湾・香港の4地域で沸き起こっている現在進行形のフェミニズム運動を紹介する書籍です。ここではその一部を、数回に分けて先行公開していきます。
今回は中国のレズビアン・アクティビスト(現在はアメリカ在住)典典さんの、クィア・アクティビズム、フェミニズムとの出会いです。

“同語”――共同言語を求め、多様性の空間を創るために

典典(ディエンディエン/中国)

2008年、もしかしたらオリンピックの余韻でしょうか、北京ではいつも様々な活動が開かれていました。テーマは多様で、開放的でした。

当時私は大学生でした。春学期が始まってすぐに私はある拉拉ララ、中国語で「レズビアン」の意)バーで開かれた「クィア巡回映画祭」に参加しました。

バーの入口には私と同じような大学生の女の子がいて、ララのDV実態調査のアンケート用紙をくれました。そのとき初めて、私は「DV」と女性同性愛の関係を考えました。後になって、そのクィア映画祭もララのDV実態調査も、「同語(トンユィー)」というレズビアン団体がサポートしていたことを知りました。

2009年、私はまたもや「同語」の活動をニュースで知ります。バレンタインの日、北京の有名な観光地・前門(チェンメン)の街頭で、2組の同性カップルが結婚写真を撮影し、集まった通行人にバラとともに、LGBTの権利についてのパンフレットを贈ったのでした。

街頭アクションがほとんど許可されない中国での、創意に富んだ活動に興奮しました。探し当てた同語のウェブサイトには、私にとってすごく新鮮なジェンダー情報があふれていました。

この年、私はある恋に終わりを告げました。そして、「個人的なことは政治的なこと」だと初めて本当に気づき、ララとして、女性として、共に苦難に向き合わなければと考えるようになりました。私は同語でボランティアを始め、ジェンダー社会運動の道を今まで歩んできました。

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それから私はあちこちを転々としましたが、「ジェンダー社会運動の道」のスタート地点は忘れられません。オフラインで訪れることのできる場所、北京の地下鉄13号線の柳芳(リュウファン)駅から、飲食店の並びを通った先に、2棟のマンションがあります。そのB棟に「同語」「女権之声」などジェンダー関連の公益団体が10数個も集まっていました。

毎週末、マンションのエレベーターは、それぞれの団体がおこなう活動に参加する、好奇心と情熱にあふれた顔がひしめき合っていました。マンションのリビングルームで輪になって座っていると、よく「こんな(ジェンダー)問題、初めて考えた」というつぶやきが聞こえてきました。私もよく他の団体の活動に「お邪魔」して、そこのボランティアたちと知り合いました。

LGBTIとフェミニズムのいくつもの団体がこの空間を共有していたことで、私たちは共同言語を育みやすくなりました。多くのララがフェミニズム・アクションに参加して性指向について議論していたし、同語でもララのグループのために積極的に「ジェンダー・キャンプ」をおこない、DVに関する研究や「反DV法」の立法アドボカシーに加わりました。

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中国の市民社会への締めつけが強まるにつれ、ことに2015年の「女権5姉妹」事件(*)以降、このジェンダーNGOビルでの活動は頻繁に警察の干渉と圧力を受けるようになりました。2020年の末、ビルに残っていた最後のジェンダーNGOも出ていかざるをえなくなっています。

だけど、同語は逆境でも新たな空間を探しつづけています。2016年に設立された「レインボー暴力終結所」(彩虹暴力終結所)は、現在に至るまでソーシャルワークと法律支援などの手段で、家庭、職場、学校で暴力にあったLGBTIを支援しつづけています。

2005年の設立以来、同語は多様な空間を求めつづけてきました。LGBTIコミュニティのオフライン集会と街頭アクションの空間、クィア映画祭の言論空間、「華人ララ連盟」(2008~18年)の国境を越えた連帯の空間、反DV法のアドボカシーと市民参加の空間、そしてLGBTIとフェミニズム運動の融合した空間……。どれも様々な人たちが求めてきた「共同言語」の空間なのです。

(訳:熱田敬子)

* 2015年3月7日、国際女性デー前夜、中国各地で公共空間の性暴力(地下鉄やバスなどの痴漢)に反対する啓発活動をおこなおうとしていた行動派フェミニストたちが、相次いで警察に拘束された。李麦子、王曼、韋婷婷、鄭楚然、武嵘嵘の5人は後に「女権5姉妹」(フェミニスト・ファイブ)と呼ばれるようになった。

典典

典典(ディエンディエン)
猫と霊感を与えてくれるすべてのものが大好き。北京で中国哲学を学びつつ、同語でボランティアをし、香港で歴史を学びつつ、華人ララ連盟(CLA)で仕事をした。ここ6年ほどはアメリカのアトランタで暮らし、エモリー大学でジェンダー研究の博士論文提出資格者として学びつつ、現地のアジア系市民の権利運動に参加している。

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編者 左から:
 熱田敬子(あつた・けいこ)
 金美珍(キム・ミジン)
 梁・永山聡子(ヤン・ながやま・さとこ・チョンジャ)
 張瑋容(ちょう・いよう)
 曹曉彤(チョウ・ヒュートン、ジェシカ )

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