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入門篇(1)

田野大輔(コーナン大学)

本棚の基本的な構造

さて、ここまで読んでこられた方なら、もう十分に自作のメリットを理解されているに違いない。ジャストサイズの本棚を作れば、散らかった蔵書を効率よく収納することができそうだし、市販品を買うよりも安くすみそうだから、ここは一つ自作に挑戦してみようかしらと思い始めている読者も多いはずだ。しかしそう思ったところで、方法がわからなければどうしようもない。そこでこの「入門篇」では、本棚を自作する基本的な手順とコツを解説していくことにしよう。これだけ知っておけば誰にでもとりあえずは本棚が作れるという、基本中の基本と言うべき内容になるので、それ以上の応用的な方法については、追って説明するまでお待ちいただきたい。

まず知っておかねばならないのは、本棚の基本的な構造である。それはごく簡単に言えば、縦と横の部材、すなわち①側板と②棚板から成り立っている。このうち、①側板は本棚の両側にある縦長の板のことで、本が載った重い棚板を左右で支える柱の役割を果たすものである。とくに背の高い本棚の場合、側板にはかなりの重量がかかるので、できるだけ頑丈な木材、25mm以上の厚さのある一枚板を使ったほうがよい。他方、②棚板は本が載せられる水平の板で、左右の両端を側板に支えられる構造になっている。この板が本棚の一段を構成し、同じ長さのものが上から下へ何段か並んで、全体で一つの本棚となるわけである。本の重さでたわむことがないよう、棚板には20mm程度の厚さのある木材を使うべきである。棚板は側板に固定されている場合もあれば、可動式になっている場合もあるが、ここではすべての棚板を側板に固定する前提で話を進めることにする。本棚全体の段数は棚の間隔次第だが、その間隔は収納する本の高さに応じて自由に決められる。

裏板は必要か?

ところで賢明な読者はお気づきかもしれないが、通常の本棚にはもう一つ、裏板と呼ばれる部材も存在する。これは本棚の裏側に貼る薄い板で、本を入れるとほとんど見えなくなる部分だが、実は本棚の強度を保つうえで重要な意味をもっている。側板と棚板を縦横に接合しただけでは横方向の力にきわめて弱く、容易に菱形に変形してしまうので、それを避けるために裏板を貼るわけである。その意味で、本来なら必要不可欠な部材なのだが、以下で解説する製作方法では側板を壁に金具で固定するか、天井に突っ張る形で固定するので、必ずしも裏板を貼る必要はないだろう。逆に言うと、本棚を固定せずに壁際に置くだけの場合、裏板を省くのは非常に危険である。

本棚の固定方法は、住環境に応じて次の2つのいずれかを選べばよい。ⓐ持ち家で壁に穴をあけられる場合、一般的なL字金具を使って壁に固定する(ただし壁に石膏ボードが使われている場合は必ず下地の木にネジでとめること)、ⓑ賃貸住宅で壁に穴をあけられない場合、特殊な金具を側板の上部に取り付けて天井に突っ張る形で固定する。この突っ張り金具には様々な種類のものがあるが、見た目がオシャレで取り扱いも容易なのはラブリコかディアウォールの製品である。いずれにせよ、本棚を設計する前にあらかじめ固定方法を考えておくことが望ましい。

L字金具による固定
L字金具による固定
突っ張り金具による固定
突っ張り金具による固定

本棚を設計する

本棚の基本的な構造と固定方法を理解したところで、いよいよ本棚の設計に入ることにしよう。まずやるべきことは壁の採寸である。本棚を設置する予定の壁面の幅と高さをメジャーで測る。それが本棚のサイズの上限になるのだが、ジャストサイズの本棚を作ろうとする場合でも、組み立て時の誤差でスペースに収まらなくなると困るので、本棚の幅と高さは10mm程度短めにしておいたほうがよい。たとえば壁面の幅が850mm、高さが2400mmの場合、本棚の幅は840mm、高さは2390mmに設定する。この寸法によってほぼ自動的に側板と棚板の長さが決まってくる。

①側板は2390mmの長さのものが2枚必要になる。ただし突っ張り金具で天井に固定する場合、その金具を取り付ける分だけ短くしなければならない(ラブリコの場合、天井の高さから75mm短い木材を用意するよう指定されているので、側板の長さは2400mm−75mm=2325mmとなる)。②棚板は840mmから側板の厚さ×2を引いた長さになる。側板の厚さが38mmなら、840mm−(38mm×2)=764mmにする。この長さの板を本棚の段数分用意することになる。ただし最上段は天板になるので、必要な板の枚数は本棚の段数プラス1と考えておけばよい(天井に突っ張る形で固定する場合、天板はなくても構わない)。

棚板の長さについては、ここで一つ注意しておかねばならないことがある。板の厚さにもよるのだが、長さを900mm程度までにしておかないと、本を載せたときに重量でたわんでしまう。だから900mmを超える長さになる場合は、本棚の中央にもう一枚側板を入れ、その左右で棚を分割したほうがよい。ただそうすると側板と棚板を十字型に接合する必要が出てきて、組み立ての難度が上がることになる。これは応用的な方法に属するので、後であらためて説明することにしたい。

棚の間隔の決め方

本棚の設計において最も重要なのが、棚の位置と間隔の決定である。最初に決めるのは最下段の棚板の位置だが、これは床にべったり接地させるよりも、床から50mm程度上げた位置にしたほうがよい。そうすることで本棚が家具らしく見えるようになり、ホコリ対策にもなるからである(この上げ底部分の前面に板を貼ったものを「ハカマ」と呼ぶ)。最下段の棚板の位置を決めたら、下から順に天井まで適当な間隔をあけて棚板の位置を決めていく。棚板の間隔はどんな本を収納するかに応じて設定すればよい。たとえばA5判の本なら230mm、四六判なら210mm、新書なら190mm、文庫なら160mmの間隔で収まるはずだ(洋書の場合、単行本なら250mm、文庫本なら220mmでほぼ収まる)。この寸法は本のサイズより10mm程度大きいが、これくらいの余裕がないと本が取り出しづらくなってしまうので、ギリギリの寸法にするのは避けるべきである。

棚の間隔を決める際に忘れてならないのは、棚板の厚さも計算に入れることである。たとえば棚の間隔を230mm、棚板の厚さを19mm(後述するワンバイ材の厚さ)とすると、最下段の棚板から230mm間隔をあけた後に棚板の厚さ19mmを加え、そこからさらに230mmあけた後に19mm加えるという手順を繰り返して、天井の高さまで複数の棚板の位置を決めていく。壁にスイッチなどがある場合は、棚板がそれに干渉しないよう間隔を広めにとるなどの工夫も必要になるだろう。こうして順に位置を決めていくと最後に端数が出るが、それは各段に適当に振り分けて調整すればよい(大型の本を置くことが多い下の方の段の間隔を広めにとるのが無難である)。一般住宅の天井の高さは2400mm〜2500mm程度なので、これでだいたい8段〜9段ぐらいは棚がとれるはずだ。

こういった具合に、どんな本を入れるかを考えながら棚の間隔を設定し、本棚全体の段数がどれくらいになるかをはじき出すのは、実に楽しい作業である。自分の理想を反映した本棚を作り出す喜びは、市販の本棚を説明書通りに組み立てることによってはけっして得られないものだ。もちろん各部の寸法を決めるには煩雑な計算が必要になるので、人によっては面倒に感じる場合もあるだろう。しかしそれと引き換えに自由な設計が可能になるので、この作業で得られる利益はきわめて大きい。天井まで本で埋め尽くされた美しい本棚を手にするためには、細部まできっちりと寸法を詰める手間を惜しんではならない。夢を具体化する工程とでも言えるだろうか。これによって理想の本棚は目に見える形をとりはじめるのである。

(たの だいすけ)1970年生まれ。甲南大学文学部教授。専攻は歴史社会学。
著書『ファシズムの教室――なぜ集団は暴走するのか』(大月書店)、『愛と欲望のナチズム』(講談社選書メチエ)、『魅惑する帝国――政治の美学化とナチズム』(名古屋大学出版会)ほか。
ウェブサイト
Twitter:@tanosensei

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