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ジェンダー抜きに語る正義って?(ハッシュタグだけじゃ始まらない)

3月18日刊行予定『ハッシュタグだけじゃ始まらない――東アジアのフェミニズム・ムーブメント』(編著:熱田敬子/金美珍/梁・永山聡子/張瑋容/曹曉彤)は、中国・韓国・台湾・香港の4地域で沸き起こっている現在進行形のフェミニズム運動を紹介する書籍です。ここではその一部を、数回に分けて先行公開していきます。今回は台湾の若手フェミニスト、鄭敏さんです。
刊行記念イベントにもぜひご参加ください!(3月19日(土)19時~21時、オンライン、見逃し配信あり)

ジェンダー抜きに語る正義って?

鄭敏(ジェン・ミン/台湾)

台湾金馬映画祭でドキュメンタリー映画賞を獲得した『私たちの青春、台湾』が2020年10月に日本で公開され、日本のフェミニスト・コミュニティで議論を引き起こしました。

映画の主人公でひまわり運動の重要人物である陳為廷(チェン・ウェイティン)が、立法委員の補欠選挙に出馬表明したとき、痴漢行為で起訴猶予処分を受けた過去が暴露されました。陳が当初、痴漢など大した問題ではないというようにふるまっていたことが、一部の観客の怒りを買ったのです。

立命館大学の富永京子もこの映画をもとに、社会運動の中の性差別と性暴力は枚挙にいとまがないと批判しています。日本でも台湾でも、社会体制の変革を求めるとき、その正義の旗の陰でジェンダーの不正義だけは放置されてきたのではないでしょうか。

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ここ10年ほど、台湾の学生運動はジェンダー/セクシュアリティ問題に強い関心を寄せています。同性婚の実現を求めるときにはいつも学生の姿があり、毎年のプライドパレードは運動参加の実践練習の場になっています。

それでも、女性学生運動家たちが感じるジェンダー問題はなくなりません。サークル内の性分業や、社会運動が良しとする相互行為やイメージのあり方は、女性たちに自分の「ジェンダー」が社会運動の中での立ち位置にどう影響するかを意識させてきました。

伝統的に学生運動団体はマスキュリニティ(男性性)を帯びています。罵詈雑言、喫煙、飲みくらべ、強硬で理屈っぽい議論のスタイルは、女子学生たちにストレスを与え、彼女たちの発言の余地を奪ってきました。

そこで女性主体のサークルをつくった人もいれば、マスキュリニティを学びとり、強さの武装をして男性から発言権を奪う能力を見せる人もいます。でも、女性が社会運動の場で強くふるまえば、対立した相手から「男おんな」や「ヒステリー」と嘲られます。

弱いと思われれば立場がなく、強くふるまえば理性がないと言われる。同じように正義のために闘っているのに、なぜ女性には同じ発言の機会がないのでしょう? マッチョにならなければ話せないのでしょうか?

マスキュリニティは演説のスタイルだけでなく、外見も評価の対象にします。女性には、女性性を削ぎ落とした質素さが求められます。化粧をし、着飾って運動に参加する女性は、「真面目に取り組んでいない」と非難されるでしょう。

しかし、身なりと運動への真剣さに何の関係があるのでしょう? 綺麗でいることと社会運動に打ち込むことは対立しません。外見でアクティビストの真剣さは測れません。

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学生運動の中でジェンダーがポリティカル・コレクトネスの問題だと認識されるようになって、男性運動家たちもSNSにジェンダー平等を支持する書き込みをするようになりました。でも、口にする正義と実際の行動が全く異なる人もいます。

同じ学生運動のサークルのある異性愛カップルの、男性のAはFacebookに、性暴力の女性被害者を支持する書き込みをしていました。でも彼は付き合っていたBさんを殴っていたのです。

Aはバレないように服で隠れる部分だけを殴り、Bのフェミニストとしてのアイデンティティを馬鹿にしていました。Aは、Bには主体性があるのだから、別れるかどうかはBが決めることだと言い、暴力行為やパートナーを傷つけたことについては全く反省しませんでした。

学生運動のコミュニティは緊密に結びつき、友人関係が重なり合っています。そこでパートナーの暴力を公に非難すれば、共通の友人たちはどちらの側につくか選ぶことになります。日頃よいイメージをもたれている男性は全く影響を受けず、被害者だけが悪者にされて黙って出ていくことになりかねません。同様に、学生運動の中のある種の性暴力は糾弾しづらく、「あいつには気をつけろ」と小声で忠告するしかない状況があります。

マイクを握って様々な正義と平等を語る仲間たち。でもその正義は、どうやらジェンダーの正義とは無関係のようです。残念でなりません。

(訳:熱田敬子)

参考文献
王雅各(1998)「大學學生社團中男性社員的性別意識及其影響」
黃怡安(2015)「民主決策與性別過程:以台灣318占領行動中的學生動員為例」
鄭敏(2021)「廣場與情場:女性學運參與者之親密關係探析」

作者照-鄭敏 (1)

ジェン・ミン
台湾人。学生運動に参加したことで、ジェンダー視点に目覚める。高雄師範大学ジェンダー教育研究所で修士号を取得、高雄プライド(高雄レインボーパレード実施団体)に参加。現在は、先住民のイシューに取り組むルーマ・アソシエーション(南島魯瑪社)に(民族的マジョリティである)漢族の女性として勤務。

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編者 左から:
 熱田敬子(あつた・けいこ)
 金美珍(キム・ミジン)
 梁・永山聡子(ヤン・ながやま・さとこ・チョンジャ)
 張瑋容(ちょう・いよう)
 曹曉彤(チョウ・ヒュートン、ジェシカ )

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