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阪神大震災においての女性超過死亡と隠された性被害の実態

1995年1月17日に起こった阪神大震災であまり知られてないことがある。

① 女性の死亡者数が多かった、特に高齢女性が多かった。

その原因のひとつは、単身高齢女性が家賃の安い建築基準法改正前の住宅に多く住んでいたからと言われている。

② 避難所等での性被害について、約10年被害実態が知られなかった。(後述)

①の女性の死亡者数から見ていこう。
阪神大震災の死亡者数について

兵庫県の調査ホームページより
死者数:6,402人(男性 2,713人、女性 3,680人、不明 9人)
(注)不明9人は、神戸市において被災した身元不明者である。

図にするとこのようになる。

兵庫県ホームページ 阪神・淡路大震災の死者にかかる調査について(平成17年12月22日記者発表) 調査項目 性別【単位:人、(%)】より
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk42/pa20_000000016.html

女性が57.5%を占めている。

死亡時年齢を見てみると、高齢女性が多くなっている。

兵庫県ホームページ 阪神・淡路大震災の死者にかかる調査について(平成17年12月22日記者発表) 調査項目 死亡時年齢【単位:人、(%)】よりhttps://web.pref.hyogo.lg.jp/kk42/pa20_000000016.html

1981年に建築基準法が改正され耐震基準が強化された。阪神大震災で家が倒壊し死亡したのは、この1981年の建築基準法改正前に建てられた木造住宅に住んでいた方々が多い。家賃の安いこれらの木造住宅に多く住んでいたのは、低年金の高齢女性だった。
震災という災害時に、平時のジェンダーの差が、大きく広がってあらわれることが阪神大震災でも起こっていた。

こういったことにいち早く気づき、発信したのが、ウィメンズネット・こうべの正井礼子さんだ。

1995年12月「女たちが語る阪神・淡路大震災」を出版

https://wn-kobe.or.jp/bosai/sankou.html

以下、女たちが語る阪神大震災から引用

 初めに、日本には社会階層がない、仮にあったとしても、努力次第でだれでも大学へ進み、ステップアップできる平等社会、一億総中流階級なんてどんなにうそっぱちだったか、震災後どれほど思い知らされたことだろう。地震の揺れは平等に来たとしても、結果は平等ではなかった。古い家や木造文化住宅が壊れ、女性のお年寄りが最も多く亡くなられた。震災後の立ち上がりの速さは、社会階層によって全く違った。大企業に勤めている人いない人、土地を持っている人いない人、定職があるか否か、正職員か否か、貯金の有無、若いか年寄りか、男か女か。
 男女賃金格差のひどさは世界有数。この何十年変わらない。女の給料は男の半分以下。女の給料でコンクリートの家は建たない。一たん結婚、育児で退職すれば、再就職はパート勤務がほとんど。離婚しても、子どもがいなければ市営住宅にも入れない。その結果、高齢女性の一人暮らしは古い家かアパートが多く、最も被害がひどかったのだ。つまり、日本の社会階層の格差が最もひどいのは、男という階層と女という階層であるとこの地震で私たちはつくづく思った。
 被災企業は、真っ先に女性パートの首を切った。地震からはや一年。まちは復興しつつある。しかし、人々の心の傷はまだまだいやされていない。たった数十秒で多くの大切な命が失われたのだから。それでも日々地震の記憶は風化されていく。私たち被災地に住む女性たちにできることとして、せめて私たち女性の目に見えたことを記録しておきたいと思った。

② 避難所等での性被害について、約10年被害実態が知られなかった

正井礼子さんが3年前に反差別国際運動(IMDAR)に、「災害と女性の人権」 ~阪神淡路大震災から25年を経て を寄稿した。

「捏造されたもの」にされた性被害

1995年7月に神戸で近畿弁護士会主催による「被災地における人権」という集会があった。分厚い配布資料には「高齢者の人権、子どもの人権、障害者の人権、外国人の人権」とあったが女性の人権は項目になく、たった一行「女性が性被害にあったという噂があったが、兵庫県警は『1件もない。デマである。』と否定した」と書かれてあった。

支援活動を通してDVや性暴力被害を聞いていたので、翌年3月に女性団体が集まり「神戸・沖縄 女たちの思いをつないで~私たちは性暴力を許さない!」という集会を行った。落合恵子さんの「あなたが悪いんじゃない」という基調講演と、被災地報告、強姦救援センター沖縄からの報告に240人の女性たちが参加。閉会後は「性暴力を許さない!」「夜道を安心して歩きたい!」「女のNOはNO!」などのプラカードを持ってデモを行った。ところがある雑誌から「被災地レイプ伝説の作られ方」というタイトルで「被災地の性暴力はすべて捏造されたものである」という記事がでた。私は実名でひどく叩かれた。「性暴力を許さない」と言うことが、なぜこれほどのバッシングを受けるのか、と信じられない思いだった。しかも女性のライターによるその記事は雑誌ジャーナリズム賞を受け、彼女の他のルポとまとめて単行本になった。深く傷ついた私は、DV被害女性の支援活動に専念し、その後10年間、災害や性暴力については沈黙した。被災地では毎年のように防災フォーラムが開かれたが、多くの場合男性の研究者がずらりと壇上に並び、活断層の話やライフラインの話に終始し、女性たちが災害時に経験した困難については誰も語らなかった。

「災害と女性の人権」 ~阪神淡路大震災から25年を経て
https://imadr.net/books/202_3/

2004年、大阪府議会議員だった私は、災害と女性の支援策を大阪府もするべきだと考え、正井さんに会いにいった。

1995年に起こった阪神大震災においての女性たちの被害を訴えた正井さんが口を封じられ、そして誰も議会で取り上げようともしなかった。

2005年には、正井さんたちと「防災フォーラム 災害と女性 ~防災と復興に女性の参画を~」と題して、シンポジウムも行った。

当時、頑張っている被災地、復興している被災地のニュースは発信されても、その陰でDVや性被害にあった女性たちの声は黙殺されてしまったことを今こそ知ってほしい。

日本は災害大国であり、その支援の際に、ジェンダーの視点は必ず必要になる。
大沢真理先生に教えてもらったのだが、自治体の防災計画と女性委員比率も重要だ。女性委員が一定の割合でいる場合の備蓄品、避難所運営準備に差があったと西日本新聞が調査結果を報道している。

 備蓄品では、食料や衛生用品など「備蓄がある」と答えた自治体の割合は、調査したほとんどの品目で「10%台」が「0」を上回った。
特にアレルギー対応食(「10%台」48・3%、「0」22・6%)
▽介護食(同12・2%、同5・0%)
▽洋式仮設トイレ(同42・5%、同17・9%)は2倍以上。
簡易間仕切りや生理用品、哺乳瓶、小児用や成人用のおむつなどでも20ポイント前後の差があった。

 避難所運営の指針では、
「女性の参画推進」について記載がある自治体は「10%台」44・2%、「0」19・0%。
「女性への暴力やセクハラ防止のための対策」(同28・9%、同11・8%)
▽「バリアフリー・ユニバーサル対応」(同33・0%、同15・8%)でも2倍以上の開きがあった。
「プライバシーの確保」「こころのケア対策」などでも2倍近い差があった。

 大沢名誉教授は「防災会議に女性委員が一定数いる自治体では乳幼児や高齢者など多様な視点から配慮がなされていた」と指摘。「女性は家庭で子育てや親の介護などを経験することが多く、男性とは異なる視点を持つことが多い。意思決定の場に女性の参画を進めるべきだ」としている。 (田中良治)

阪神大震災の時、私は神戸の実家におり、ちょうど成人式を迎えた翌々日だった。あれから28年。「災害とジェンダー」の取り組みはまだまだ必要だ。

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