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記憶クッキー

積み上げられた記憶という名のクッキーを、むしゃむしゃと食べるのは誰?ベイクドチーズの香ばしさに誘われて、たくさん集まってきたのは誰?

僕のポケットはなぜかお金がいっぱい。見えない誰かの突っ込んでいく、得体の知れないお金。広げてみると、見たこともないデザインの触ったこともない素材の、どうも使えそうにないお金なんだ。

きっと、火星人のしわざに違いない。

僕の食べられてしまった記憶は、美味しかったのだろうか?このお札の価値はどれほどのものなのだろうか?

わからない。

ま、忘れてしまうほどの、たいしたことない思い出なんだ。と、僕はずっと気にしていなかった。

*

ある日、ある街をある用事で歩いていたら、あらぬ方向から僕は呼び止められた。

「なあ旦那。いいクッキーがあるよ」

見上げると、天井にぶら下がったタコそっくりの親父が、カゴ一杯のクッキーを見せびらかしてきた。親父がひとかけ齧ると「うんめえ」とそれは美味しそうに演じてみせる。

最近、小麦粉価格の高騰で店先から姿を消していたクッキーが、闇で売られていると噂で聞いたことがある。こんなところで商売していたのか。

「幾ら?」と僕は尋ねてみた。

「教えられないね」とタコ親父は口先をタコみたいに尖らせた。

「幾らか分からなければ、買えないじゃないか」と僕は少し機嫌を悪くした。

「クッキーを食べて、お客様が気に入ったら、自分で設定した代金をいただきますんで」

闇屋のくせに、サービス精神はとても旺盛なんだ。

*

色んな味がした。きっと、どのクッキーも、違う人の記憶なんだろう。すごく悲しい味がしたり、とびきりサプライズに満ちた味がしたり、それといった変わり映えのしない味がしたり。

食べてしまうと、記憶らしく静かに僕の中に沈んでいった。

気がつくと、タコ親父が僕の顔を、ニヤニヤしながら観察していた。とてもイヤラシイ表情なんだ。

「どうですかい?」とツルツルの頭を撫でて、僕を共犯者のような目で見てくる。

「悪くないね」と僕はポケットにあった、とても怪しげなお札で支払ってみた。タコ親父の顔は嬉しさで茹で上がっていた。

僕は最後の一枚を口に放り込んだ。

それは僕の記憶だった。

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