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音楽からもたらされる影響ははかりしれない カワムラユキ×久林紘子対談3

空間を音によって唯一無二の記憶に変えるサービス、「サウンドアメニティ」。このプロジェクトに関わるプロデューサー、DJ、選曲家などとして活躍するカワムラユキさんと、パーティースタイリスト・空間スタイリングなどで活躍する久林紘子さんの2人が対談。最終回は「音」で人を感動させること、そして今後このサービスをどういうものにしていきたいかについて語りました。

東京オリンピックで感じた「音」で人を感動させるやりがい

――カワムラさんが選曲を提供した時に、「人の心がグッと動いたな」と思った瞬間があれば教えてください。

カワムラユキ(以下、カワムラ):最近でいうと、東京オリンピックでフェンシングの会場の選曲を担当した時ですね。フェンシングってけっこう、ライゾマティクスさんが演出で入っていて、剣の先にセンサーがついてタイムラプスで動きを表現したりとか、先鋭的なプロジェクトをたくさん導入していらっしゃったんです。

コロナ禍のオリンピックということで、世界各国から来た選手は東京のどこにも遊びに行けない状態でした。私は入場のタイミングや表彰式、その前後での選曲を担当していたんですけど、演出家の方が「東京の今を感じる最高の選曲をしてほしい。まずは会場で待機している選手や働いているスタッフの方々に東京のフィーリングを届けてワクワクさせて、そして中継で観ている皆さんまでをも楽しませてほしい」とおっしゃったんです。

東京オリンピックで、その場にいない人の心も動かすことができた

なのであらゆる時代の、私が思う「東京」の曲をセレクトしてかけました。吉田美奈子さんの「TOWN」とかのシティポップや、レアな曲をバンバンかけたらすごく盛り上がって、映像チームや生配信、照明のチームとかも曲名を聞きに来てくれました。まずはそうやって50人ぐらいいるスタッフのチームが盛り上がって、私は直接お会いできなかったんですけど選手の方もすごく喜んでいる、と教えていただきました。ネット越しに配信を見ている方からの反響も大きかったですね。

それから、ダース・ベイダーのメインテーマを切り取ってループして使ったら、それがネットですごく話題になって。ネットの盛り上がりから日刊スポーツに拾われて、「フェンシングの会場にかかっているダースベイダーのテーマが癖になる」って記事にしてもらったんです。オリンピックというスポーツの大会なのに、音楽のことで取り上げてもらえた。その瞬間に、コロナ禍で気を使う事柄も多く、仕事自体も本当に大変な状態でしたけど、自分が与えられた役割の中で見ている人の心を動かせた、というやりがいをすごく感じました。

音から受ける影響ははかり知れないもの

――今後サウンドアメニティのプロジェクトを動かしていく上で、どのような方とお仕事をしていきたいですか。

カワムラ:童心を忘れない人、でしょうか。好奇心を抱いた時に利権とかメリットなどのフィルターを挟まず、まずやってみたいと思える人。そういう人こそ新しいビジネスの世界で奇跡を起こす人になれるんじゃないかなと思います。

久林紘子(以下、久林):私は自分とは全く違うジャンルの方や、自分の持ってないものを持っている人とコラボしていきたいという気持ちがあります。想像力をかきたてられる、刺激をしあえる人と話すのはすごく楽しい。私はアート回りも好きなんですが、たぶんそういう刺激を求めているからなんだろうなと思います。

あとは共感とか感動とか、正直に人としての感動を表してくれるクライアントさんだと、私も「もっと頑張ろう」と思えますね。やっぱり人間だし、褒めてもらえれば育つように、人間らしいキャッチボールができる人とお仕事したいなと思います。日本人はどうしても感情表現がおとなしくて、あまり表現されない方もいらっしゃいますが、できれば反応が見えるとうれしいなと思います。

やっぱり喜んでいただけると頑張ろうと思えます

カワムラ:人、という軸からはちょっとずれますが、食とのコラボもいいんじゃないかなと思います。食って切り取り方によっては一番本能に訴えかける素晴らしい表現なのかなと。食にプラスして久林さんのコンセプトメイキングやデコレーションが入ったら素晴らしいものになるんじゃないかなと思うし、体験を超える経験になるインパクトがあるんじゃないかなと。パーティーパッケージみたいなのを作りたいですね。

久林:パーティーパッケージ、いいですよね。今でもパーティーパッケージを企画しているホテルもあるんですけど、どんどんその内容もアップデートされるべきものだと思っています。毎年トレンドの色やスタイルは変わります。毎年更新しないと、「パッケージ」として形骸化してしまうと気になっているので、そういうところにもこのプロジェクトを通して提案していければいいなと思っています。

カワムラ:できること、やりたいことはたくさんありますよね。

久林:「インスタ映え」って言葉はもうすでに死語になっちゃいましたけど、今ってみんなが発信するものが写真から動画に変わってきてるんですよね。SNSでアップする用の動画に、楽しく過ごした時間の音楽を入れていくというのも、需要ありそうですよね。

カワムラ音、音楽から受ける精神的な影響ってはかり知れないものだと思います。料理において下拵えや一手間をかけるのと同じように、空間を意識するすべての人には、「音楽はメインじゃない」と言わずにいてほしい。お手洗いのタオルを替えるかのように、お客さんや時間に合わせて音楽も替えて、という形になってくれればいいかなと思っています。

(聞き手・高橋ひでつう 撮影・構成 藤井みさ クリエイティブディレクション NORISHIROCKS)

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