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おとしごろ離婚 substory003_ひねてるようで真っ直ぐな人。らしく生き抜いた新宿三丁目のギタリストKeny。<後編>

前編に続き、大切な友人の話を。

あの・・こちらKeny家の控室でしょうか?

Kenyが火葬に入るまで、帰路に着かず見送りに残る方もたくさんいたが、棺が見えなくなると、徐々に人も少なくなっていった。

ご家族の姿もなく、香典をどうしようかと思っていると、
同じように香典を手にしてウロウロしている2人がいた。
「あの・・Kenyさんの?」
「あ、はい。あ!香典?ですよね、僕たちもどうしようと思ってて」
葬儀社の人が通りかかったので尋ねてみた。
「今回は家族葬ですし、ご家族のご意向もあり誰からも受け取っていないんですよ」というのだ。
「でも・・」
「もしアレでしたら、ご家族に直接お伝えに行ってみたらいかがですか?控室にいらっしゃると思いますよ」

居合わせたお二人と一緒にエスカレーターで聞いた控室へ向かった。
「あの、こちらKenyさんの・・」
「あら、はい、そうですよ。マスターから聞きましたよ、あなた急遽来てくださったんだって。本当にお時間とって来てくださって、ありがとうございました。」
「いえ!とんでもないです。あのこれ、受け取っていただけないのでしょうか?」
「そうなの、みなさんに受け取らないってお願いしてるんですよ。1人だけからいただくわけにもいかないから、しまってくださいな。
せっかくここに来てくださったんだし、どうぞ座って!ビールでも飲んで一息ついてください。」
「え、そんな逆に申し訳ないです!」
「もし時間がゆるすなら。その後、御骨を拾ってあげて。ね。」

中を見渡すと8卓ほどの丸テーブルの一番端でご家族が休憩されているだけだった。
「それじゃあ、お言葉に甘えて・・」
連れ立ってきた3人でビールを酌み交わした。聞いたところ二人は大学時代の友人で地元から新幹線で駆けつけたのだという。愛されているなKeny。

しばらくすると「aya?」不意に声をかけられた。
はじめてKenyと話したときのドラマーだ。
「俺も一緒に座っていい?」
「もちろんだよ、下にいたの?」
「そう、みんな仲良かったヤツらは結構残ってるよ」
そう会話していると、控室の噂を聞きつけたのか、ぞろぞろと人が集まってきた。
あっという間に空席がなくなり、ビールやら日本酒やらをじゃんじゃん頼みだした。なんとも飲み屋仲間の嗅覚だ。

隣の卓を見ると、
ロン毛と、金髪と、ヒゲと、スキンヘッドが、みんなしんみりと肩を落としている。
中身はみんないい大人なんだけれど、ロックBARの常連でバンドをやっている自分のスタイルを大事にする大人たちなのだ。
なんだかとっても素敵で、ギャップにちょっと笑えて、その心痛を想うとまた胸に迫るものがあった。

ロックスターよ、これからもよろしく。

時間になり、御骨になったKenyを迎えに行った。
最期まで付き添えたことを心から有り難く思いながら、御骨を拾わせてもらった。
木箱に収まったKenyに心で話しかけた。
「Keny、こんなに沢山の人が葬儀に駆けつけるなんて、あんた、とんだロックスターだね。」

あっという間に夕方近くなった。
子供のお迎えもあるからと、ご家族とみんなに別れを告げて、先に帰路についた。

帰りの電車を乗り継いでいる時だ。
黒のパンプスがパックリ割れて壊れた。
『ちょっと!帰したくないからって、靴壊さないでちょうだい!』と
自惚れたのは私だけの秘密です。

姿はなくてもずっとみんなの心に生きていて、今もBARに行くとKenyの写真やポスターが貼ってある。
イベントがあればギタリストの話題にのぼるKenyは、やはり新宿三丁目のロックスターなのだろう。

この記事を書いたのは二周忌の頃。
告白のあとに帰っていくKenyの背中を、見えなくなるまで見送った、あの日と同じような月の夜に。


今回もお読みいただき、ありがとうございました。
Kenyへの想いを込めた長文に最後までお付き合いいただきまして心より感謝いたします。

こうやって出会った人たちの感性や要素も私の中に息づいている、大切な生きる源です。
ここに辿り着いてお読みいただいた方にも、力や心根が届きますように。

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