見出し画像

切り売りできる日常がなくなっていく、当たり障りない共感性を吐くしかなくなる。

日記である。日常を、時間を、より正確には睡眠時間を切り詰めて、とりあえず文章を書いている。書いているけれど、楽しかった出来事は特に何もなく、伸びに欠く日々をバターナイフで薄く伸ばした日記がそこに出来上がるばかりだ。何でもない日常を何でもなくするのは自分なのだ、と現実が突きつけてくる。

けれど、今日の僕に残っていることなんて、仕事が上手く回らず区画整理されていない田舎道の様相を呈した思考くらいだ。何をやるにも気分が乗らなかったが、このままでは生活が死にゆくのみだ、という危機感に駆られて自炊をした。

一人暮らしを始めて二ヶ月が経つが、ひじきの煮物は毎週といっていいほど食卓に出している。コスパが良く栄養満点(海藻に人参、大豆まで入っている!)なので、いざというときのために材料を買い溜めているくらいだ。今日の煮物は普段の具材に一品、刻み油揚げを加えてみた。油揚げは煮物の旨味を底上げするキーマンだった。スポンジの役割を果たす具材は煮汁を十分に吸うので舌に乗せると旨味が持続しやすいのだ。今度から煮物には油揚げを欠かさないようにしようと心に誓った。美味しいご飯は生活を豊かにしてくれる。伸びに欠く日々に潤いをもたらしてくれる。華美じゃなくていいから、美味しく長く食べられる味のものを少しずつ覚えていきたい。もし、こちらの日記に煮物に詳しいリスナーがいらっしゃいましたら、良さげなレシピをご教授願いたいです。

料理のおかげでちょっといい気分で1日を終えることができそうだ。食のような、共通の話題は広範囲の人からの共感を得やすい。話すことに困ったら天気のことでも喋っておけ、という雑談の常套句は理にかなっていて、同じことが料理でも言える。食べる側も作る側も、一定の人口がいることが確定しているから。

共感しやすいジャンルの話を1本持っていると気分が楽になってきた。会社の昼礼のネタにもなるし、悪いところなしだ。

会社の昼礼で話すことに悩んで半年くらいが経っていたのを思い出す。年一回か二回の訪れる憂鬱な5分間にどれだけ悩まされていることか。安直に自己紹介をするのもいいだろうが、語れる自己は不在だ。少なくとも僕自身はそう思っている。

ニッチだけどR指定が入らない趣味があるわけではないし、文章を書く趣味に共感を得られるとも思っていない。好きな音楽も好きな小説も好きな映画も、十全にその魅力を伝えきれる自信がない。いざ自分の好きなものを語って場がしらけたら、退職代行サービスをこさえて、自分の筆跡じゃない退職届を会社に投げてしまうかもしれない。しないけれど、それくらいには鬱屈な気分になるはずだ。

だから次の昼礼は料理の話題にしよう。煮物っていうのも日本人っぽくてポイントが高いし。そうやって、他人からの見え方を気にして話を組み立てている自分を背中から見やると、薄っぺらい日常をまた一つ消費しているように見えなくもない。知らないふりをしたいけれどできなくて耳が熱くなる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?