見出し画像

紙・包・鶏、彪|ペーパーチキン

こう蒸し暑い日が続くと、私はたまらなくシンガポール料理が食べたくなる。親しみやすい味わいに、ほどよい異国情緒も楽しめて、何はともあれビールに合う。料理名がカタカナ語的なところも馴染みやすくてとても楽しい。ところが、名前のイメージで頼んでみると、想像していたものとはやや違う料理が運ばれてくる。しかも、おいしさはその想像を優に超えてくる。そんな一筋縄でいかないところもシンガポール料理の魅力。

名物料理の筆頭『チキンライス』は、よく知る赤いケチャップライスとは異なったあっさりとした白い見た目。しっとり柔らかな茹で鶏とその汁で炊いたジャスミンライスの芳ばしさに、蒸し暑い季節にも食欲が湧く。
『キャロットケーキ』といってもニンジンのデザートではなく、これは大根餅と卵の炒めもの(大根=ホワイトキャロット)。大根餅のぽってりとした食感と甘めの茶色い味付けに箸が進む。

そしてもう一つ、人気料理の『ペーパーチキン』も名前から「鶏肉が紙で包んである」様子までは頭に浮かんだものの、それを「紙ごと油で揚げる」とは想像を超えてくる。低温の油の中でじっくり加熱された紙包みの鶏肉は、ただ揚げたのとも蒸したのとも煮たのとも違う、驚きのジューシー感。甘め寄りのこってりとした味付けとにおいが、直ちにごはんを欲する。いや、まずその前に、ビールをもう一杯お願いします。


■ペーパーチキンの作り方■

・鶏モモ肉…1枚(約300g)

[漬けだれ]
・醤油…10g
・オイスターソース…10g
・紹興酒…10g
・片栗粉…5g
・砂糖…5g
・ごま油…5g
・サラダ油…5g
・おろし生姜…15g
・長ネギ…1本

・サラダ油…100g~

「紙で包んだ鶏肉を油で揚げる」という、日本では馴染みの薄い調理法。けれど、この「紙包み」が驚きのジューシー感を生み出します。一度試してみても損は無い、新しいおいしさです。時間を置いて肉に下味をしっかりつけるのも、味わいと食感の2つの面で重要なポイントになります。

■動画でもご覧いただけます■


①肉に下味を付けて、ひと晩〜1日置きます
ネギは太さを半分に切ってから斜め薄切りに、しょうがは皮をむいてたっぷりとすりおろします。ボウルに[漬けだれ]の調味料を入れ、そこにネギ・おろししょうがも加えて、よく混ぜ合わせます。混ぜたてはネギが多過ぎるようにも感じますが、加熱するとぐっと痩せるので、後悔が無いようにぜひたっぷりと使ってください。この香味野菜の量の多さも異国情緒の一つ。

P1040816.00_00_57_36.静止画007-2

鶏肉は、皮を下にしてまな板に置き、肉から大きくはみ出した皮や、黄色い脂がたくさんついていれば切って除いてから、やや大きめの一口大の棒状に切ります。鶏肉1枚を12〜14等分に、1切約25gが目安。肉は「普段の唐揚げよりはやや小さめ」くらいに切っておく方が、中が見えない紙包み揚げでも安心です。また、味も染み込みやすく味わいの面でもおすすめ。

P1040816.00_01_10_15.静止画008-2

切った鶏肉をボウルに加えて混ぜ、よく漬けだれを行き渡らせたら、冷蔵庫でひと晩~1日ほど寝かせます。漬け時間を長めに取ると、少ない調味料でも味が中までしっかり染み込み、また調味料の効果で肉自体がしっとり柔らかく仕上がります。寝かせるといっても、冷蔵庫に入れておくだけです。

P1040816.00_01_24_05.静止画009-2

私は、唐揚げ・しょうが焼き・味噌漬け焼きなども、「調味料を少なく・漬け時間を長く」しています。豚キムチも、肉とキムチを和えて冷蔵庫で寝かせておくと、肉に下味がついて質感もしっとり。反対に、肉そのもののおいしさや歯切れのよい食感を楽しみたい時には、そのままさっと焼くといい。どう食べたいかによって、その時々で下ごしらえを選べば、家の料理はまだまだおいしく広がります。


②〈ひと晩〜1日後〉紙で包みます

下味が染み込んだ鶏肉を紙で包み、揚げる準備をします。途中で肉汁が漏れ出すと油はねの心配があるのと、旨味を逃がしてしまってはもったいないので、できるだけきっちり包むことが大事。揚げ物にも使えるクッキングシートを大体15cm四方に切って準備し、包み始める前に鶏肉のボウルを今一度よく混ぜ合わせて、たれもネギもバランスよく、残さず肉と一緒に包んでいきます。

私の包み方は、まず鶏肉を中央に横向きに置いて、手前と向こうの紙の端を合わせて2回折り込み、筒状に。

P1040816.00_02_30_08.静止画008-2

続いて、両端をキャンディのようにキュッとねじってとめます。できるだけ隙間ができないように、ねじる部分を上下から折って、少し細くしてからねじるときちっとしやすい。

P1040816.00_00_05_57.静止画011-2

クッキングシートは比較的丈夫ではありますが、そうは言っても紙なので破れることがあります。慎重に丁寧に。

P1040816.00_02_50_55.静止画007-2


③油で揚げます
冷たいフライパンに、紙包みを並べます。紙がフライパンの縁からはみ出だすと危ないので、私は包みの両端をキュッと軽く上向きにねじり直してから並べています。

P1040816.00_02_56_29.静止画013-2

紙の下の方が1cm浸る程度の少なめの油を回し入れて、中火にかけます。3分ほど経つと、油が温まってパチパチじわじわと音がし始めるので、その音を聞いたら「弱火にしてから」蓋をして、約6分加熱します。

P1040816.00_03_07_39.静止画014-2

6分経ったら蓋を開けて、包みが膨らんでいたら裏返します。もう蓋はせず、さらに2分静かに揚げていきます。蓋を開けるときは、くれぐれも蓋の裏側についた水滴が油に落ちないように、絶対に蓋を傾けず、軽く持ち上げたらそのまますっと横に動かして開けてください。きっちり包んでも多少汁が漏れ出してしまうことがありますが、こうして蓋を使ってゆっくり低温で火を通すと、油はねも少なく、優しく揚げていくことができます。

P1040816.00_03_22_45.静止画015-2

カラッとした揚げ上がりを好む日本の揚げ物では、高温の油を使うため鍋に蓋をすることはまずありませんが、アメリカ式のフライドチキンなど、蓋をして低温でじっくり煮るように揚げる料理もあります。油から顔を出している部分にもゆっくりと熱が伝わるので、少ない油で料理ができて、肉も柔らかく仕上がるのが利点。

P1040816.00_03_30_31.静止画016-2

ただし、「弱火/低温」と「蓋は、傾けず、油に水滴を落とさないように開ける」の2点が絶対の約束。蓋をして強い火で加熱すると、油の温度が上昇し続けて非常に危険です。また、油に蓋の水滴が落ちると激しくはねて、これまた大変危険なので、2つの約束は厳守してください。約束をしっかり守れば、安全に、新しいおいしさに出会うことができます。


④完成です

紙がパンと膨らんで、軽く醤油が焦げるような素敵な香りがしてきたら揚げ上がりです。紙の中がしっかり温まると肉汁の蒸気で膨らむので、火が通った目安になります。油を切って皿に盛り付け、しぼまないうちに熱々を是非どうぞ。

P1040816.00_03_47_23.静止画017-3

醤油ベースの甘めの味付けと香味野菜の香りに興奮。たっぷりのネギの薄切りとおろししょうがを、頑張って良かったと心の底から思う瞬間です。甘辛味、肉汁、と言ったら「ごはんのせ」までがお決まりのコース。レシピにはありませんが、ごはんを炊いておくのも決して忘れずに。

P1040816.00_04_05_08.静止画018-3

熱さに気を付けつつ包みを開くと、よく味が染みていそうな火の通った鶏肉が現れる。ほぼ想像通り。けれど食べてみると、揚げたのとも蒸したのとも煮たのとも違う、温度と質感、想像を超える柔らかさにきっと度肝を抜かれます。

P1040816.00_04_15_40.静止画019-2

下味に加えた片栗粉がしっかり肉汁を留めて、熱い汁がほとばしる!ことはそれほどありませんが、それでも抑え切れない旨味汁を一滴もこぼさないように、慎重に包みを開いてください。

P1040816.00_04_11_17.静止画020-2

シンガポールビールの雄、タイガーを友に。
旅行も外食も気軽には行けない今。このようなギミックで日々の食事に楽しみを添えて気持ちを保ちつつ過ごすことが、とても大切だと思っています。

それでは今日はこのへんで。
最後までお読みいただきありがとうございました。


■はじめての書籍が発売になります■

2021年9月10日発売『おとな料理制作室へようこそ』(ワニブックス)



お読み頂きありがとうございます。 これからもおいしいお料理とおいしいお酒をたくさんお届けします。