見出し画像

七味唐辛子で手作り辣油|よだれ鶏

「汗をかかないことも、バーテンダーの技術です。」これが、バーテンダースクールで最も衝撃を受けた先生の一言だった。「どうやって?!」驚きの余り、肝心の「汗をかかない方法」を質問することを忘れたまま授業は終わってしまったから、今もってその方法はわからない。思うに「夏の暑い日に、バーに入って冷たいドリンクで涼もうと足を運んでくれたお客さまを、汗だくのバーテンダーがお迎えするのでは興を醒ます」という意味合いだったのだろう。

バーカウンターの内側には、お酒やグラスを冷やす冷蔵庫・冷凍庫が納めてあり、その排熱で結構暑い。一年中長袖シャツにネクタイ、ベスト着用がバーテンダーの基本スタイルで、冬寒く、夏は暑く当然汗をかく。仕事中は水分を控えたり(今思えば非常に良くないけれど)、しゃがんで顔の汗をこまめにタオルで押さえながら、「涼しい顔」で乗り切る以外の方法を、現役の間に見つけることは遂にできなかった。

現在は常にお客さまと対面する接客業ではなくなったこともあり、夏はむしろ汗をかくのが気持ちがいい。そんな夏の気分にぴったりの料理が、しっとり柔らかく茹で上げた鶏肉に、たっぷりと辣油をかける四川風の冷菜「よだれ鶏/口水鶏」。皿を覆う真っ赤な色とは裏腹に、さっぱりとして口当たりがよく、箸が進む。そしてじんわりと辛さが追いかけてきて、次第に顔と体に汗がにじんでくる。

日本の夏は暑いもの。手作り辣油の旨辛さと鮮やかな紅が、見事に食欲をそそり発汗を誘います。


■手作り辣油のよだれ鷄の作り方■

[茹で鶏]
・鶏肉…2枚、ムネとモモを1枚ずつ使用
・水…1ℓ
・塩…8g
・長ねぎの青い部分…約1本分
・しょうが(皮付きのままスライス)…2~3枚

[手作り辣油]
・長ねぎの青い部分…20g、ぶつ切り
・しょうが(皮付きのままスライス)…20g
・にんにく…2かけ
・サラダ油…50g
・七味唐辛子…5g
・水…3g

[かけだれ]
・砂糖…10g
・オイスターソース…10g
・醤油…20g
・酢…20g
・鶏の茹で汁…20g

[付け合わせ]
・きくらげ(乾燥)…8g、水でよく戻す
・炒りピーナツ(薄皮付き)
・香菜

和のミックススパイス[七味唐辛子]で作る[手作り辣油]がおいしさのカギ。手近な材料で、少量でもたっぷりでも自由自在に作れるので、好きな時に好きな量で使えます。余熱で火を通すしっとり[茹で鶏]は、実際の加熱時間が短めで、夏の台所仕事にありがたく、とてもおいしい。


■動画でもご覧いただけます■


①鶏肉を茹で、きくらげを戻します
蓋のできる鍋に、茹で鶏の[長ねぎの青い部分・しょうが・分量の水・塩]を入れて中火にかけて沸かします。この[茹で鶏]は、茹でる時の「水と塩の量」がポイント。水の量を計っておくことで「肉の熱の通り具合」が調節しやすくなり、水と塩の量のバランスが「茹で鶏としてのおいしい味付け」に直結するので、どちらも必ず計ってください。

P1050115.00_01_04_58.静止画011-3

湯がしっかり沸いたら鶏肉を入れます。一度シンと静かになってから、再び沸くまでそのまま待ち、また湯が沸き始めたら、肉がふつふつと軽く揺れる程度に火加減して2分間茹でます。蓋をして火を止め、あとはそのまま30分以上~1時間ほど置いておくと、余熱で柔らかく熱が中まで通ります。

P1050115.00_01_37_28.静止画012-2

ちなみにこの[茹で鶏]は、以前書いた[海南鶏飯/シンガポールチキンライス]の茹で方と全く同じ。手頃なムネ肉もパサつかずしっとり仕上がり、おいしいスープ(茹で汁)も同時に出来上がる魔法の茹で方です。

このしっとり茹で鶏と一緒に食べる付け合わせで、気に入っているのが[きくらげ]。野菜とは違って水気が沁み出さないので、タレが薄まらず、盛り付けた後の料理のおいしさが保てます。強い色と歯ごたえの割に、味がほとんど無いのが特徴で、淡白な鶏肉と合わせても全くおいしさを妨げない。「皆さんもっと使えばいいのに」と日頃から思っている大好きな乾物です。後で包丁で細切りにするので、いかにも肉が厚そうな大きめのものを選ぶのがおすすめです。

茹で鷄のお湯を沸かしている間に、水に浸して戻しておいてください。前日から浸けて冷蔵庫に入れておいてもまったく問題ありません。

P1050115.00_00_25_10.静止画014-2

②辣油を作ります
ねぎの青い部分はざく切り、しょうがは皮ごと薄切り、にんにくは2~3mm程度の薄すぎず厚すぎずの薄切りにして焦げやすい芽を除いておきます。冷たいフライパンに[切った香味野菜とサラダ油]を入れてから、弱火でゆっくりと加熱を始め、辣油のベースになる[香味油]と、食感のアクセントになる[ガーリックチップ]を同時に作っていきます。

P1050115.00_01_58_33.静止画015-2

野菜からじわじわと泡が出始めたら、特ににんにくの様子を見張っていてください。スタミナのある香りを油に移しながら、仕上げに食感を加えるガーリックチップにもなる大事なにんにくです。黒みを帯びると苦くなるので、色を気にしながら、かつカリッと香ばしく。そのためには、弱火で焦らずじっくりゆっくり加熱することが重要。

P1050115.00_02_27_01.静止画016-2

にんにくに薄い揚げ色がつき始めたら、「少し早いかな?」と感じるくらいで、にんにくだけをキッチンペーパーの上に取り出します。箸で触るとフニャッとしますが、冷めるといつの間にかカリッとなるので大丈夫。油から引き上げた後も加熱が進み色も濃くなります。

そのまま油の加熱を続けながら、ボウルに[七味唐辛子/ごく少量の水]を入れてなじませます。

P1050115.00_02_42_56.静止画018-2

そこへ、にんにくを引き上げたあとの油を熱いまま注ぎます。くれぐれも火傷に注意。シュワーっと一気に七味唐辛子が熱され、湯気が上る。あらかじめ少量の水で湿らせておくのは、油の高温で焦げるのを防ぐためなので、必ず加えるようにしてください。ねぎとしょうがはフライパンに残し、油をよく絞って除きます。

P1050115.00_02_53_54.静止画019-2

油が冷めたらガーリックチップを加え[辣油]の完成です。ガーリックチップを加えるのは、必ず油が冷めてから。そうすることで、油に浸った後もカリッと軽快な食感が楽しめます。

P1050115.00_03_02_36.静止画020-2

[辣油]の材料は、お店や商品ごとに様々ですが、辛味と色のベースになる[唐辛子]に、[山椒][しょうが][陳皮(みかんの皮)]などが使われることが多い。考えてみると、これらは七味唐辛子にも配合されている材料。手近な七味唐辛子を利用すれば、あれこれゼロから自分で調合するよりも、ずっと気楽に作りやすくなります。量も自分の好きな分量で作れるので、必要な時に必要な分だけ作り、風味が新鮮な間に食べきれるのも魅力です。

③かけだれを合わせ、付け合わせを準備します
ボウルにかけだれの[砂糖・オイスターソース・醤油・酢]を入れ、茹で鶏の鍋から[茹で汁]を少量取り加えて、よく混ぜ合わせます。本場四川風なら、ここは真っ黒で旨味のある黒酢を使いたいところ。ですが、私は買っても中々家では使い切れないので、普段使っている米酢に[オイスターソース]と[鶏の茹で汁]で黒い色味と旨味を補い、タレの味をまとめています。料理の完成まで冷蔵庫に入れて冷やしておくと良し。

P1050115.00_03_32_24.静止画021-2

きくらげは、1分ほど茹でてザルに上げ、冷めてから重ねてくるくると丸めて細切りにします。

P1050115.00_04_52_09.静止画022-2

皮付きピーナツは、サラダ油をほんの少し入れて鍋で軽く炒ると香ばしさが段違いに良くなります。この料理には、ピーナツがびっくりするほどよく合います。おつまみコーナーで売っていることが多いので、見つけたらぜひ試してみてください。健康志向でナッツ類も無塩タイプが増え、料理にも使いやすくてありがたい。残りはそのままおつまみにどうぞ。

P1050115.00_04_28_32.静止画023-2

あとは香菜をざく切りにして、これで全てが整いました。火のそばに立って一気呵成に作る中華風の料理とは違い、パーツを揃えて、それを後で組み立てるイメージのお料理です。心静かに、淡々と。

④完成です
茹で鶏の余熱時間が経ち、中まで火が通っていたら、鶏肉を食べやすく切ってきくらげと一緒に盛り付けます。ムネは「しっとり感が生きるやや薄め」、モモは「むっちりとした食べ応えが楽しめるやや厚め」が、私の好みの切り方。肉は熱々の状態で切ると、せっかく留まっていた肉汁が流れ出てしまうので、煮汁ごとぬるくなるまで冷ましてから切る方が、よりしっとりしておいしく食べられます。作って早々に食べたい時は、余熱が終わったら肉だけを先に取り出し、表面にラップを貼り付けて乾燥を防ぎながら冷ましておいても。

P1050115.00_04_58_58.静止画024-2

鶏肉の上から、かけだれと、辣油をたっぷりとかけ、ピーナツ、香菜をあしらって完成です。

P1050115.00_05_10_12.静止画026-2

七味唐辛子で作った辣油は、香味油の新鮮な香りが立ち、たっぷりかけても辛味が穏やかで、なめらかな味わい。酸味のあるかけだれは旨味があり、さらりとして肉にからみはしないけれど、そこがまたあっさりとしていい。それでも茹で鷄自体に香味野菜の香りと塩味が染みているから無味感がなく、たれと辣油を含んだきくらげと一緒に口に運べば、これまたいい。
きくらげの主張の強い黒色と食感がアクセントになり、料理の完成度を盛り上げてくれています。そしてピーナツも。今日もありがとう。

P1050115.00_05_27_46.静止画027-2

辛い食べ物は元々大得意だけれど、夏になると体がさらに欲する。自然に委ねながら、日々を暮らす意識も忘れず、しっかりと心身を整えておきたい。

それでは今日はこのへんで。
最後までお読みいただきありがとうございました。


■はじめての書籍が発売になります■

2021年9月10日発売『おとな料理制作室へようこそ』(ワニブックス)


お読み頂きありがとうございます。 これからもおいしいお料理とおいしいお酒をたくさんお届けします。