椎名あゆみ『あなたとスキャンダル』の差別描写について
上のは高校生の娘が晩ごはん作ってて、それを父親が新聞を読んでのんびりと待っていたシーン。「えー。これ、ありえなくないー?」という意見も出ていましたが、とにかく昔の漫画を読むと高校生だろうが女は家事と結び付けられています。
というわけで、本記事では『あなたとスキャンダル』における差別描写を挙げていき、現代における百合読解の助けにしようという目的のものです。
この『あなたとスキャンダル』は1993年~1995年に少女漫画雑誌『りぼん』にて連載されました。作品の主軸に女性同性愛があり、そのあたりに現代では修正されるような差別描写があります。(※女性同性愛自体の成就はありません。)
ちなみに一部の差別表現に関しては文庫版発行の際にかなり修正されたようで、上記のデジタル版でもその時に修正された表現で販売されているようです。
マンガMeeのコメント欄では差別問題議論がけっこう活発に行われており、差別表現の修正にしても後世に差別の実態を伝えるべく当時のまま掲載すべきではという意見もありました。
以前書いたように、同じ『りぼん』掲載作品でもけっこう同性愛差別的な表現はあって、しかも修正されているようには思えないこともしばしばなので、『あなたとスキャンダル』に関しては著者の意向で修正したのではないかと私は見ております。
差別表現を修正するのもまた著作者の意思であり尊重すべきものですし、何より著者自身が考えた上での修正でしょうから、それを否定するのもまた違うのかなと思います。
そういったわけで、本来はそれを取り上げるべきではないと結論づけられてしまうわけですが、『あなたとスキャンダル』を再評価するためにこそ検証の意味はあるのではないかとも思います。こういったことは著者にとっては不本意なのでしょうが、そこをあえてやってみようかなと考えた次第です。
なお、本記事で引用しているのは最初に紙で発売された全5巻版の初版のものとなります。このコミックスは各話のナンバリングが不記載であり、なおかつページ数がよくわからないページも多く、一応直近の記載で確認はしておりますが、それでも間違えている可能性がかなりあるので、そこはご了承ください。
で、いかんせん時代が時代なので、同性愛差別描写以前に女性の地位の低さが当然になってる描写もあったりします。ヒロインが「王子様に痴漢から救ってもらった♡」というシチュエーションになったと思ったら、痴漢に遭ったことを逆に説教されたりします。昔の漫画を読むと、かなりの確率で痴漢の扱いが何かおかしいです。
上記記事によると、「痴漢は犯罪です」のポスターは1994年からということで、『あなたとスキャンダル』の作者恒例である勝ち気ヒロインであっても、あれが限界だったのでしょう。
あと、「どう考えてもこの男の子とくっつくんだろうなー」というヒーローキャラとの思い出が、ヒロインに対する暴行というのも昔の少女漫画あるあるなのですが、そのあたりまで行くとキリがないので割愛します。
というわけで、ここからが本題。「おかまさん…!?」。片思いの相手が実は女性でしたー!残念ー!展開です。この要素は『あなたとスキャンダル』のストーリーの根幹でもあるのですが、明らかになるのはけっこう遅くて、今だったら第1話に入れているような気がします。後述の箇所では多くが修正されていますが、ここはデジタル版でもそのままになっていました。
「相手が実は女でした」だったからバカにされるー!と不安で頭いっぱいのヒロインの描写です。このあたりも今だったら別にそんなマヌケ扱いにならないんじゃないかというコメント意見があったような、なかったようなです。なお、ここもデジタル版では修正がありません。
それで、『あなたとスキャンダル』は「それでもあなたが好きです!」と主人公が譲らない展開となります。そこの点だけなら悪くないのですが、「危険な愛」は微妙かなあの感。デジタル版を見たらここも特に修正はされていませんでしたが。
変態扱いされるだけだぞと来ました。まあ時代を考えたら確かにそうではあるのですが。ここもデジタル版を見たら修正はされていません。(挙げてみると、言うほど修正はされていませんね。)
この「ポリネシア人」というのはけっこう人気のセリフだったみたいなのですが、デジタル版では「宇宙人」になっています。マンガMeeではここを修正されていたことに対して落胆していたコメントがけっこう目立っていました。古い漫画だと人種系も後から修正されることをよく見るような。
相手が女だとバレてしまった主人公が「ヘンタイ街道まっしぐら…」と、心の声。ここは「普通の恋する乙女……♥♥♥」と、デジタル版ではガッツリと修正がかかっています。(この記事には載せてないけど、「生◯」と伏せ字にする意味はあるのだろうか。)その直前は別に悪くないというのに何だか残念。
このあたりはデジタル版を見ても修正されていません。多分これが当時の標準だったと思われますが、今見るとなかなかどぎついです。
ここは修正されずにデジタル版でもそのままです。「今の時代ただでさえ男があまってんのに女同士でくっつかれてたまるかよっ」が今でも同じような発言がされていて笑ってしまいました。いや、全然笑い事ではないんですが。まあでも、男の変わらなさはツボに入ってしまう。
ここの「おかまの変態」はデジタル版を見ると「女子トイレ好きの変態」に修正されています。よくよく考えると、女子トイレにいて生理用品持ってたからって「おかまの変態」もよくわからないような。女装して女子トイレに潜入している男だと認識したんでしょうか。
続く187ページでも「あげくに人をおかまの変態よばわり!」というセリフがあって、デジタル版を見ると「あげくに人を変態よばわり!」に修正されてるのが確認できるのですが、182ページの修正前後と大差ないので割愛します。
ここから1巻の柱スペースの作者コメント編。「レズものですかあ?」も今じゃとりあえず「百合」って言っとけみたいな感じになりそうです。ここはデジタル版でも修正はされていません。
ここのコメントから考えるに、同性愛は読者が受け入れてくれるかどうか自体、かなり不安だったことが書かれています。『あなたとスキャンダル』は確かに現代では印刷されないような差別的な表現が少なからずあったわけであり、結城芹香というキャラクターにしても見た目はほぼ男性で現代の感覚からすると同性愛には見えない人もいるのかもしれませんが、それでも当時としては革新的な部類であったように推測できます。
ちなみに、「実は女でした」展開に不満だった読者もかなり多くいたらしくて、そのことも柱スペースに書かれていたりします。
柱のファンレター紹介コメントを読むと、ファンレターが同性愛議論の場になっていた感もあります。女子校と結びつけるのもまた時代を感じます。
少し話がそれますが、昔の『りぼん』のコミックスでは妙なファンレターが来た報告を見たりします。『あなたとスキャンダル』第5巻には、髪の毛の束を包んで送ってきたファンレターなるものが書いてあります。
ここから5巻についてです。2~4巻の部分も修正箇所はあるみたいなのですが、修正理由は1巻のと似たようなものなので、割愛します。そもそも徹底網羅するのが目的でもありませんし。
5巻も初版分からの引用です。こちらもページ数に誤りがあったらすみません。
ここは「これであたしも変態の仲間入りかと思うと」とあるのですが、デジタル版を見ると「これであたしもそっちの世界の仲間入りかと思うと」に修正されています。ここのところは修正後もあまりセーフな部類に改変されていないような気がしますが、修正されたのが2008年発売の文庫版の時ではないかと思うので、2010年前の感覚だとそうなってしまうかなあと感じます。
ここの「レズごっこ」はデジタル版だと「イチャイチャ」に修正されていました。何気に「レズ」が出てくるのは少ないような。
後は、168ページの「モーホの気にでもめざめたのか?」が「そっちの道にでも目覚めたのか?」に修正されているところでしょうか。「モーホー」じゃなくて「モーホ」なんだと思ったり、「めざめた」がひらがなから漢字になっていたりと、どうでもいいところが気になりました。
さて。『あなたとスキャンダル』の差別描写について、修正されたものも、されなかったものも、あわせて軽く触れてみました。修正理由については著者本人が特に語っていないようなので真相は不明なのですが、主題にした分、気を遣ったのかなと思います。
こういう記事を作成すると、さぞとりあげた作品を批判したいのではないかと取られそうなのですが、当時の時代を考えるとよくここまで描いたなという思いのほうが私としては強いです。
むしろ、「なるほど、こういったアプローチもあったんだ!」というひらめきみたいなものも感じられて、非常に楽しい読書体験となりました。
そのあたりはメインのブログに書きましたので、よろしければご覧ください。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?