見出し画像

慮る

ビールの美味しさに気がついてしまったこの夏。
暑さも消え去って一番好きなのに好かれない季節がもう来た。

響ちゃんと東京をふらふらした一年前の夏。
あれから既に一つ以上も季節が回ってしまったことに二人で驚いた。

あの時の私がどんなことを考えてどんな思いを持っていたのかなんてもう覚えていないくらいに。特筆することが億劫になるくらい遠い記憶になったことが寒さのせいで余計に苦しい。

味覚の豊かな季節にもなって、夏の人間臭い匂いが薄まってきて東京でも秋の匂いを感じられるようになり、かなりノスタルジーだ。

「思い込み」で自分を縛っていたのかもしれないなと思い、ここ最近は新しいことをいくつか始めてみた。関わる人もそうだし、普段読まないようにしていた書き物もそうだし。斜に構えることをやめてみようキャンペーン実施中なのだ。案外、難しいから1日に3回は悪態をつく。

響ちゃんは一回生下の後輩だけど、撮る写真が好きで「ファンです」と言って仲良くなった2年前の冬から時々会う。私が仕事を始めて東京という街を知るようになったおかげで、ちょっとだけ貢献できたかもしれないと先輩らしいことが出来て少し安堵していた帰り際、彼女の好きなデザイナーさんご本人と直接お話することができた。最近逃していた感覚を携えて二人を傍観し、夢中になってディスカッションしている様子を眺めながら、同時に二つも三つにも脳内で考えが広がる感覚を思い出して、もうしばらくこんなに頭の中を自由に使ってなかったことに悲しくなった。
思い込みと、過去の自分が時に今の自分の予想もできないくらい遠くにいることもあるんだなを感じて、大事にしていたものをちゃんと思い出すこともやっておこうと思う。


好きなだけ自分の興味を突き詰めていい時間を過ごした去年を羨ましく思っているとビールを片手に語らうと、
「自由にものを考えて、仲間と好きなだけ膝を突き合わせたっていい。それが大学生の特権だし、そう思って悔しくなることは何も恥ずかしいことじゃないよ。」
と、一番欲しかった言葉をくれた人もいた。
いつもと違うことをしてみるとどれだけ矮小で貧弱で、そんなものの見方しかできない分際で悲観的になっていたのかわかった。
わかるよりも先に感覚がくることも久しぶりだった。
感じた感覚を疑って、今何を求めているのか、何を大切にしているのか。
そういうことに脳みそを使ったっていいし、意外となんとかなるかもしれないことも秋になってようやく感じられてきた。
忙しいながらも脳みそはこの速度にようやく慣れてきたから本来の私がちょっと戻ってきたのかもしれない。

今年は秋が一番好きかもしれない。

ではおやすみなさい。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?