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旅の途中。道後温泉

道後温泉

 初めての場所なのに、そこには懐かしい誰かに出会ったような安堵があった。大人になってから訪ねる幼少期の故郷のように、そこは思いのほか小さかった。いな。本当に小さかったわけではない。修復中でいちばん大事な顔が覆われていたせいだ。
 初夏の熱気は、温泉に浸かり続けるには軽い苦痛を誘発する。それでもせっかく来たんだもの、浸からないわけにはいかない。

 道後温泉の銭湯が130周年を迎える2024夏には、晴れて全容を現す。次来た時には、と口にしていた。すべてを把握し切れなかった悔しさが、完結できなかった苛立ちが、火照った体を冷ますことなくくすぶりはじめた。
 おそらくここ数年のうちに、ここに戻ってくる。改修中につき仮に設けられた入場口を見上げながら、そんなことを考えていた。

 旅は、いつだって「次」にバトンを渡す。おそらく、意にそぐわない道に迷い込んだりしながら、ああでもない、こうでもないと思案して、紆余曲折、曲がり道くねくねしながら「そうそう、これこれ」とやっとのことで的を射た答えにたどり着く。近い未来に。

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