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夏の興奮冷めないうちに

今日海に行ってきた。
今年初めての海にお出掛けだった。

私の住む場所では海は特別なものだ。
すぐ近くに海があるが海水浴ができる場所は少ない。
そして大概が夏にしか入ることができない。
そんな近くて遠い場所。

だから海に行く、というのは一大イベントなんだ。
仰々しく、盛大に、大満喫するために、色々と準備をする。
浮き輪を持って、テントを持って、お弁当を持って、おやつを持って…
そんな前夜の準備さえ心躍る幸せの1ページになる。

当日はいつもより早起きが決まり事。
みんなそわそわしてアラームが鳴ると一目散に飛び起きる。
待ってましたとばかりに。
朝はいつも寝ぼけ眼な子ども達なのにその日はもうすでに笑顔。
ああ、早く海に行きたいなって顔になっている。

その日、子ども達は朝からとても良い子になる。
着替えはもちろん自分でする。
朝ごはんもしっかり食べるしお話もしない。
どんな準備だって率先してやる。
もちろんおやつの準備は入念に何度も確認をしている。
それくらい毎日やってくれたらな、と親になって思ったりもする。
でもそんなキビキビした姿に私は嬉しくなってしまう。

さて、出発だ。
車内は海の大合唱。
時々かもめの水平さんなんか挟みながら。
やっぱり飽きて隣の子とあっち向いてホイを始めていた。
何度も何度も「あとどれくらい?」

小一時間走るとやっと左手に海が見えてきた。
その青いこと、青いこと。
街でもなく、道路でもなく、畑でもなく、そこは青い海なんだ。
その青さを見るとワクワクが止まらなくなる。
早く行こう!

海水浴場はすでに泳いでいる人もいた。
その姿に我先にと子ども達が慌て出す。
まだテントも立ててないよ、とのんびりとした声をあえて出す。
そんな声、子ども達には聞こえてもいないんだけど。
そんな私も早くあの海の近くへ行きたくてたまらないんだ。

トイレは行った。
日焼け止めは塗った。
浮き輪は空気入ってる。
おもちゃの入ったバケツは?

その青に飛び込む!
と言っても最初は恐る恐る波にちょんとするだけ。
思っていたよりもぬるい海にほっとする。
そして帰っていく海を見てやっと海にきたんだって思う。
今年もやってきたよー。
そんな気持ちがあの雲のようにむくむくと湧いてくる。
海はそれを広い心で受け入れてくれる。
「待っていたよ」と言わんばかりに。

子ども達は頭から水を被り存分に海を楽しんでいる。
浮き輪がキラキラひかっている。
笑顔がキラキラひかっている。
海は輝きに満ちている。
その輝きを眩しいと感じる暇もなく波が打ち寄せてくる。
腕につけている時計が意味をなさない。
その波の中で時間だけがさらさらと流れていく。
輝きはどんどん増していく。

海で食べるお昼ごはんってどうしてこんなに美味しいんだろう?
おにぎりの塩味がちょうどいい。
結構しょっぱめに作ったんだけどな。
海のしょっぱさを感じても尚身体は塩味を求めているんだ。
長女はおにぎりを2つも食べた。
次女はおにぎりにおかずにおやつも食べた。
末っ子はもうやめようというまで食べた。
私もおにぎりを2つ食べた。

だんだんと海が暑くギラギラしてくる。
水が思ったよりも熱くなっている。
太陽が頭の真上にいるみたい。
帽子の中からも頭がじわじわ蒸されている感じがする。
それでも海にいたい。
波の中で海を感じていたい。
出来るだけ長く。
この場所を、この時を、味わっていたいんだ。

足を洗う水が心地よかった。
海にいた全ての物たちがトランクに押し込められた。
私たちもそれぞれの座席に座る。
まだ鼻の中には海が残っているのに。
サンダルには砂が残っているのに。
私たちは海を出発しなければならなかった。
海がどんどんと遠くなる。

それでも夜になると身体が海を思い出す。
あの優しい揺れを思い出す。
すると鼻の中に残っていた海が香ってくる。
目を閉じるとまだ海にいるような。
でももうここは布団の中のような。
そんな幸せな余韻の中で私たちは眠りにつくんだ。
興奮冷めやらぬなか。

子どもにお小遣いをあげる気持ちで♡