見出し画像

どうかこの夏よ、ゆっくりと過ぎていってはくれないか

日差しが眩しくてカーテンを閉めている寝室で子どもの寝かしつけをしていた。昼間だというのに薄暗い寝室で子どもの顔だけがはっきりと見えて。その顔は私をしっかりと捉えながらも笑っていた。何が楽しいんだろうか大人の私にはわからないけれど。寝る前の子どもっていつも楽しそう。眠いはずなのに抱きしめると逃げようとする。なぜだろう。

時折涼やかな風が吹いてきて揺れるカーテン。そこから差し込む日差しの強さに目がちかちか白と黒が入り混じる。子どもも気になって私とカーテンを行ったり来たり。ただそれだけなのにどうしてそんなに素敵な顔をするんだろう。なんとも夏らしいにっかりとした笑顔が見える。すぐ鼻の横に傷を作るんだから。

だんだんと動きが少なく鈍くなってくる。涼しい風は時折吹くけれどやっぱり夏だから寝室はしっとりとしていて。いつしか子どもの汗の匂いが寝室をいっぱいに満たしていた。どうしてこんなに小さいのに汗の匂いはしっかりしているんだろうと思いながらもその子を見つめる。その匂いさえも愛おしく感じるのは私が母だからか、それとも夏のだからか。夏の匂いと芳醇な子どもの匂いに私はうっとりとした。

あらら、瞼が閉じそうだよ。でも頑張って私を見ようと目を開けるよ。そして時折笑うよ。

その繰り返す時間の心地よさと言ったら、いつかの母の膝の上で眠る感覚を思い出すようで。あの優しさと愛しさに包まれて安心していたあの頃の気持ち。ひたすらに暖かくて柔らかくて。そして何より安全な場所で私だけの場所。私の胸はふわふわしたピンクに近く橙色のような温かいものでいっぱいになっていた。

子どもはしっとりとゆっくりと眠りに入っていった。その横顔とその寝息と。薄暗い中で子どもだけがはっきりと存在しているその様。しっとりとした薄暗い寝室。時折揺れるカーテンと涼やかな風。隙間から差し込むジリジリとした光。強めにかおる子どもの汗の匂い。全てが夏の一つの風景だった。誰もが思い浮かべるような夏がそこにはあった。私は隣で静かに泣いた。

どうかこの夏よ、ゆっくりと過ぎていってはくれないか。そう願わずにはいられない。どうかこの子の成長を隣で眺めていられますように。ずっと隣で笑っていてくれますように。ずっと子どもが幸せでありますように。そんな願いが溢れ出す、私もいつしか母親になったんだな。夏の暑さとこの子が私を優しくしたんだろう。そう願ってやまないんだ。

子どもにお小遣いをあげる気持ちで♡