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魔法少女の系譜、その102~『ヤッターマン』~


 今回も、前回に続き、『ヤッターマン』を取り上げます。
 八つの視点で、『ヤッターマン』を分析します。

[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?
[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?
[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?
[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?
[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?
[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?
[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?
[8]魔法少女は、作品中に、何人、登場するか?

の、八つの視点ですね。

[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?

 これについては、作品中に、まったく説明がありません。普通の女子中学生が、何の理由もなく、いきなり魔法少女―という言葉は、当時はありません―に変身します。

 この「説明を省略する」という発想は、すごいですね(*o*) 実際にやってみたら、視聴者は、説明など求めずに、楽しんでくれました。
 むろん、ウケるという目論見があってやったのでしょうが、ものすごく勇気のある決断だと思います。
 その証拠に、『タイムボカンシリーズ』以外では、この説明を省略して、ヒットした魔法少女アニメって、ほとんど存在しませんよね? 『タイムボカンシリーズ』の専売特許みたいになっています。


[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?

 最終回で、敵役のドロンボーが解散してしまったので、ガンちゃんもアイちゃんも、ヤッターマンを引退するでしょう。ヤッターマンでなくなれば、二人とも、普通の人間です。

 もっとも、ドロンボー再結成の可能性は残されています。そうなったらなったで、ガンちゃんとアイちゃんは、何のブランクもなく、ヤッターマンに復帰しそうです。

 基本的にコメディなので、大人になってからヤッターマンに復帰するにしても、しないにしても、深刻なことには、なりそうにありません。日常生活も、変身ヒーロー/ヒロインとしての生活も、ガンちゃんとアイちゃんは、明るく、楽しく、こなすでしょう。


[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?

 上記のとおり、「アイちゃんが、なぜ、ヤッターマン2号になれるのか?」の説明は、皆無です。「なぜ?」については、わかりません。
 動機を考えるならば、悪いやつら(ドロンボー)に対抗するためです。

 「いつ」に関しては、ヤッターワンが完成して、ドロンボーと戦うことになってからです。

 「どのように」は、おそらく、先行する「戦う魔法少女」作品に、影響を受けていると思います。『キューティーハニー』や『好き!すき!!魔女先生』ですね。
 『キューティーハニー』や『好き!すき!!魔女先生』自体は、『ウルトラマン』や『仮面ライダー』などの変身ヒーローものから、影響を受けています。間接的に、『ヤッターマン』も、変身ヒーローものの影響を受けているといえます。

 ガンちゃんもアイちゃんも、「一度、服を脱ぎ捨ててから着直す」という段階を踏んで、変身します。これは、『キューティーハニー』をほうふつとさせますね。


[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?

 ヤッターマン1号も2号も、「魔法の道具」に当たる武器を持ちます。1号は「ケンダマジック」という剣玉型の武器で、2号は、「シビレステッキ」という杖型の武器です。
 武器ですから、戦いのための道具です。ドロンボーたちとの白兵戦で使います。

 ヤッターワンをはじめとするロボット(メカ)たちも、大きな「魔法の道具」といえます。『ヤッターマン』などの『タイムボカンシリーズ』は、このメカが、非常に大きな比重を占めます。面白さの多くを、奇想天外なメカに詰め込んでいます。
 ドロンボーとヤッターマンとの戦いは、メカ戦こそが、見どころで、花形です(^^)

 魔法少女のヤッターマン2号は、メカとは関係ない力も持ちますが、ヤッターワンなどの「魔法の道具」に頼るところが大きいです。魔法道具型の魔法少女とも、言えるでしょう。


[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?

 マスコットは、います。オモッチャマという名の、さいころ型ロボットです。ガンちゃんのお父さんに作られました。本来は、ガンちゃんの家(おもちゃ屋)のマスコットです。

 『ヤッターマン』放映当時の魔法少女ものでは、まだ、マスコットという存在が、確立していませんでした。でも、『タイムボカンシリーズ』では、マスコットが、お約束の一つとして登場します。
 ひょっとしたら、この後の魔法少女ものに「マスコット」がよく登場するようになったのは、『タイムボカンシリーズ』が影響しているかも知れません。


[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?

 ヤッターマン2号も1号も、呪文は唱えません。技名を叫ぶことはあります。この点は、魔法少女ものではなく、変身ヒーローものの系譜を引いていますね。


[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?

 設定上は、秘密ということになっています。
 が、大騒ぎしながら出動するので、全然、秘密とは思えません(笑)
 このあたりは、コメディだからできる描写ですね。


[8]魔法少女は、作品中に、何人、登場するか?

 魔法少女は、アイちゃん一人だけです。
 敵役のドロンジョさまは、成人だということを別にしても、魔法少女と言えるかどうか、ぎりぎりのところです。超科学メカを魔法道具と見なせば、ドロンジョさまも、魔法道具型の魔法少女ですね。
 ドロンジョさまを魔法少女に数えるなら、魔法少女は、二人ですね。

 魔法少女を二人とした場合、アイちゃんとドロンジョさまは、善役と悪役で、はっきり分かれます。役割分担が明確なので、アイちゃんとドロンジョさまとで、区別がつかなかったり、キャラがかぶったりすることはありません。アイちゃんは、いつも正義の味方で勝利し、ドロンジョさまは、悪のやられ役です。

 このように、勧善懲悪が明確なのも、『タイムボカンシリーズ』の特徴です。
 創作物語が発達した一九七〇年代に、まるで口承文芸のような勧善懲悪の『ヤッターマン』がヒットしたのは、興味深い現象ですね。


 以前にも書きましたとおり、放映当時の『ヤッターマン』は、魔法少女ものとは、認識されていませんでした。
 しかし、こうして見ると、のちの魔法少女ものに見られる要素が、いくつも、『ヤッターマン』にあることが、わかります。その一方で、「魔法少女になる理由を説明しない」など、口承文芸と共通する、古い要素もありました。

 全体的に見て、『ヤッターマン』は、斬新な要素と、古い要素とのパッチワークです。大ヒットした理由の一つは、これでしょう。新しさと古さとの混ぜ具合が、絶妙だったのだと思います。

 『ヤッターマン』の要素は、多くが、直接的に、のちの『タイムボカンシリーズ』に受け継がれました。
 しかし、これほどの大ヒット作品―放映から三十年以上経って、リメイクやスピンアウト作品が作られるほどです―が、『タイムボカンシリーズ』以外の作品に影響を与えなかったとは、思えません。現に、三十年ほどの時間差を経て、『ポケットモンスター』のテレビアニメには、直接的な影響が見られます。

 「男女の主人公が、同じように変身して、同じように戦う」、「敵役も男女混合で、女性が上に立つことも多い」、「ヒトではないマスコットが活躍する」などの要素は、魔法少女ものに限らず、この後のアニメ作品に、影響を与えたのではないでしょうか。

 『ヤッターマン』については、ここまでとします。
 次回は、別の作品を取り上げる予定です。



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