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魔法少女の系譜、その180~『花の子ルンルン』の魔法道具とは?~


 今回も、前回に続き、『花の子ルンルン』を取り上げます。

 前回の「魔法少女の系譜、その179」で、『花の子ルンルン』のマスコット、ヌーボとキャトーが、それまでにないマスコットの形であることを指摘しました。ヒロインのルンルンは、彼らに選ばれて、魔法少女(魔女っ子)になります。断る余地もありましたが、ルンルンは、自分の意志で、魔法少女になることを選びます。そして、魔法道具の「花の鍵」を渡されます。

 これまでの『魔法少女の系譜』シリーズの分類に従えば、ルンルンは、魔法道具型の魔法少女ということになりますね。けれども、『ルンルン』の場合は、魔法道具型の魔法少女とは言いきれない問題があります。
 一つの問題は、「ルンルンが、花の精の血を引いた、特別な人間であること」です。
 もう一つは、「魔法少女になる過程で、マスコットが、欠かせない役割を果たすこと」です。

 ルンルンが、花の精の血を引いていなければ、魔法少女になれなかったのは、確実です。とはいえ、魔法道具の「花の鍵」がなければ、彼女は、魔法を使うことができません。

 魔法道具の「花の鍵」は、普通の人には、花の形をしたブローチにしか見えません。物語の途中で、「花の鍵」が壊れてしまって、新しい「花の鍵」が、ルンルンに渡されます。新旧の「花の鍵」は、デザインが違いますが、どちらも、一重のキクのような花の形をしています。
 トゲニシアのように、「花の鍵」の正体を知っている者なら、ルンルンでなくとも、「花の鍵」を使うことができます。実際、トゲニシアに、一度、「花の鍵」を奪われて、使われたことがあります。

 「花の鍵」は、トゲニシアではない普通の人間にも、奪われたことがあります。が、その時は、「高価そうな装身具だから」、奪われただけで、奪った人間は、魔法道具の正体を知りませんでした。物語の中で、普通の人間に、「花の鍵」が使われたことは、ありません。
 普通の人間でも、「花の鍵」の正体を知っていれば使えるのか、そうではなくて、ルンルンやトゲニシアのように、花の精か、花の精の血を引く者でなければ使えないのかは、わかりません。

 ルンルンが、花の精の血を引いているのは、生まれつきです。ですが、「花の鍵」は、後天的にもらったものですね。ルンルンは、ヌーボとキャトーが現われて、「花の鍵」を渡されるまで、自分が「花の子」であることを知りませんでしたし、魔法も使えませんでした。
 ルンルン自身と、「花の鍵」とがそろって、初めて、「花の子ルンルン」が生まれました。

 このパターンは、以前の魔法少女ものにも、ありましたね。そう、『魔法のマコちゃん』です。

2.8)魔法少女の系譜、その8~『魔法のマコちゃん』~(2022年6月1日)
https://note.com/otogiri_chihaya/n/nc5eb7ae103c7

 この物語のヒロイン、マコは、もと人魚の人間です。人間になった時、魔法のペンダントを渡されて、そのペンダントにより、魔法を使います。ルンルンと同じように、マコ自身と、ペンダントとがそろわないと、魔法が使えません。
 マコは、「生まれつき型」と「魔法道具型」との混合型の魔法少女でした。これに従うなら、ルンルンも、同じく、混合型の魔法少女です。

 ところが、ルンルンの場合は、「生まれつき型」と、「魔法道具型」とに加えて、もう一つ、要素があります。前述のマスコットの要素ですね。

 ヌーボとキャトーは、花の精ですが、彼ら自身が、魔法少女を生む力を持つわけではありません。彼らは、地球で、「花の精の血を引く女の子」を探して、「花の子」に選ぶだけです。魔法少女としての力は、「花の鍵」によって与えられます。
 それでも、『ルンルン』以前の魔法少女ものでは、マスコットが、魔法少女選びに関わることは、ありませんでした。そもそも、「それまでは普通の少女だったのに、誰かに選ばれて、魔法少女になる」という形が、一九七〇年代までは、多くありませんでした。

 「普通の少女が、誰かに選ばれて、魔法少女になる」作品の嚆矢は、『ひみつのアッコちゃん』でしょう。

2.6)魔法少女の系譜、その6~『ひみつのアッコちゃん』~(2022年5月31日)
https://note.com/otogiri_chihaya/n/n8b4911c1488f

 アッコちゃんは、ある日、鏡の国の妖精から、魔法のコンパクトをもらいます。これにより、さまざまな人物に変身できるようになります。
 花の妖精と鏡の妖精の違いはあっても、「妖精から、魔法の道具をもらって、魔法が使えるようになる」点は、ルンルンと同じですね。どちらの作品も、ヨーロッパの伝統的な口承文芸から、直接的な影響を受けています。
 ヨーロッパの口承文芸には、そういう話が多いです。かの『シンデレラ』も、バージョン違いはありますが、妖精に馬車やドレスを用意してもらって、舞踏会へ行きますよね。

 ルンルンとアッコちゃんとが違うのは、そうなるまでは、アッコちゃんは、まったく普通の人間で、「妖精の血を引く」などの特別な資質がないことです。
 ならば、なぜ、アッコちゃんが魔法のコンパクトをもらえたかといえば、「鏡を大切にしてくれたお礼」なんですね。善行の見返りとして、魔法道具をもらいます。これまた、伝統的な口承文芸に、よくあるパターンです。

 では、ルンルンのように、生まれつき特別な資質を持つ者が、その正体を訪問者に明かされて、魔法道具をもらって、活躍する話が、口承文芸にはないかと言えば、そんなことは、ありません。貴種流離譚【きしゅりゅうりたん】に、よくあるパターンですよね。
 有名なところでは、アーサー王の物語がありますね。アーサーは、子供の頃は、出自がわかりませんでした―王の子であることを疑われていました―が、魔法の剣を台座から引き抜いて、ユーサー・ペンドラゴン王の息子であることを証明します。魔法使いマーリンが、アーサーが生まれる前からアーサーのことを知っており、アーサーにいろいろな助言をして、魔法も使って、助けます。マーリンは、アーサーの正体を明かす者であると同時に、マーリン自身が魔法道具ですね。

 「特別な資質を持っていたが、それに気づかず、妖精から、魔法道具をもらったことで、魔法を使えるようになる」こと自体は、『花の子ルンルン』も、伝統的な口承文芸と、同じでした。
 でも、「それが女の子で、自分の意志で、困難な目的を果たすために旅立つ」のは、伝統的な口承文芸では、めったに見られないことです。『花の子ルンルン』は、それを、現代の物語として、実現しました。

 ルンルンは、魔法少女になる道を、選ばないこともできました。現に、物語の中で、ルンルンは、一度、「七色の花を探す旅に出る」ことを、断ります。高齢の祖父母を置いて旅立つことを、ためらったからです。
 最終的には、祖父母に背中を押されて、ルンルンは、旅立つことを決意します。

 この「自分の意志で、魔法少女になる」ことが、一九七〇年代には、画期的でした。それまでの魔法少女たちは、後天的に魔法少女になる場合、選択の余地なくなることが、ほとんどでした。

 例えば、上記の『ひみつのアッコちゃん』では、鏡の妖精の気まぐれ(笑)で、突然、魔法のコンパクトが、アッコちゃんに送りつけられます。
 一応、アッコちゃんは、自分の意志でそれを手にしますが、十一歳の普通の女の子(アッコちゃん)が、こんな魔法道具を使ったらどうなるか、先々のことまで覚悟して手にしたとは、とうてい思えません。アニメの表現では、戸惑いは見せるものの、アッコちゃんは、言われるがままに、魔法のコンパクトをもらってしまう感じです。

 魔法道具型の魔法少女もののもう一つの傑作、『ふしぎなメルモ』では、ヒロインのメルモが、若死にしてしまったお母さんの願いで、魔法のキャンディ(ミラクルキャンディ)を手にすることになります。それまで、メルモは、普通の小学三年生(九歳)の女の子でした。以下にあるとおりです。

2.21)魔法少女の系譜、その21~『ふしぎなメルモ』~(2022年6月7日)
https://note.com/otogiri_chihaya/n/nb767db5a2a0b

 現実にはあり得ない―あってはいけない―ことですが、母親の死後、メルモは、幼い弟二人の面倒を見つつ、家事もして、一家を切り盛りするようになります。
 自分の死後、子供たちの生活を心配した母親が、神さまに、「あの子たちをすぐ大人にして下さい」と頼みます。神さまは、母親の無茶ぶりに応えて、成長段階を変えられるミラクルキャンディを、メルモに与えました。

 子供ばかり三人の生活では、明らかに不便だというのは、誰にでも、すぐわかりますね。メルモちゃんも、「大人になれるなら、なれたほうがいい」と、ミラクルキャンディを受け入れてしまいます。子供の頭では、他に選択の余地はなかったでしょう。

 『ミラクル少女リミットちゃん』になると、これが、もっと露骨です。

2.29)魔法少女の系譜、その29~『ミラクル少女リミットちゃん』~(2022年6月11日)
https://note.com/otogiri_chihaya/n/na147b1775e0c

 ヒロインのリミットちゃんは、もとは、普通の女の子でした。それが、飛行機事故で、瀕死の重傷を負ってしまいます。「このままでは、命が助からない」と判断され、彼女の父親が、リミットちゃんを、サイボーグに改造します。彼女の父親は、優秀なサイボーグ研究者だったのです。
 リミットちゃんの「ミラクルパワー」は、彼女がサイボーグであることに由来します。彼女は、なりたくてサイボーグになったわけではありません。選択の余地なく、そうしないと死んでしまうから、父親の一存で、改造されました。

 上記のとおり、後天的に魔法少女になった少女たちは、ほぼ選択の余地なく、魔法少女にならざるを得ませんでした。
 しかし、ルンルンは、違いますね。彼女には、選択の余地がありました。彼女が断れば、ヌーボとキャトーは、別の「花の子」を探して、旅立ったはずです。設定上、花の精の血を引く女の子は、他にもいるからです。
 ヌーボとキャトーには気の毒ですが、ルンルンは、魔法少女にならなくても、普通に幸せに暮らせたでしょう。
 ルンルンは、わざわざ困難な道を、自分の意志で選びました。十二歳の女の子に、こんな決断をさせることは、伝統的な口承文芸では、ほぼ、あり得ません。口承文芸で言うなら、「男の子の冒険物語」の構造を、女の子の物語に持ち込みました。

 そして、少女を冒険に導くものとして、マスコットが現われました。ヌーボとキャトーにより、ルンルンは、初めて自分の出自を知ります。彼女は、断っても良かったのに、ヌーボとキャトーの要請に応えて、魔法少女になることを決意します。
 このような魔法少女のあり方は、「召命型」と呼べるのではないでしょうか。

 今回は、ここまでとします。
 次回も、『花の子ルンルン』を取り上げます。



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