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魔法少女の系譜、その6~『ひみつのアッコちゃん』~


 前回までで、日本の「魔法少女もの」草創期について、分析しました。日本の「魔法少女もの」が、米国の映画やテレビドラマの影響のもとに、生まれたことがわかりました。

 日本のテレビアニメに、初めて登場した「魔法少女もの」は、『魔法使いサリー』です。ほぼ同時期に、実写のドラマで、『コメットさん』という作品がありました。

 『魔法使いサリー』の大人気を受けて、その後番組に、やはり、「魔法少女もの」が来ました。
 『ひみつのアッコちゃん』です。これまた大人気となって、何回もリメイクされました。ここでは、TVアニメ版の第一作を取り上げます。
 アニメ版第一作は、昭和四十四年(一九六九年)一月から、昭和四十五年(一九七〇年)十月まで放映されました。

 『ひみつのアッコちゃん』は、日本独自の「魔法少女もの」の方向へ、大きく踏み出した作品でした。
 画期的なのが、主人公のアッコちゃんが、「生まれながらの魔法使い」ではないことです。彼女は、まったく普通の人間の少女です。

 ならば、なぜ、彼女は魔法を使えるのでしょうか?
 それは、魔法の道具を手に入れたからです。有名なコンパクト(携帯型の鏡)ですね。
 コンパクトを開いて、「テクマクマヤコン、テクマクマヤコン、○○になーれ」と唱えると、さまざまな人や動物に変身できます。元に戻る時には、「ラミパス、ラミパス、ルルルルル」と唱えます。

 この「普通の人間の少女が、ある日魔法の道具を手に入れて、それから魔法少女になる」形は、この後、「生まれながらの魔法少女」と並んで、日本の「魔法少女もの」の一大潮流となります。
 「生まれつき」型に対して、「魔法道具」型と呼べますね。

 「魔法道具」型の魔法少女は、道具がなければ、まったく魔法を使えません。
 『コメットさん』の段階で、すでに、魔法道具への依存傾向が見られました。その傾向が、『ひみつのアッコちゃん』で、いきなり、頂点に達したわけです。

 道具であれば、なくしたり、盗まれたり、といった可能性があります。
 『ひみつのアッコちゃん』には、当然、そういう話があります。「生まれつき」型では、考えにくい話ですね。話のバリエーションが増える点で、進歩しています(^^)

 以下に、「六つの視点」に沿って、『ひみつのアッコちゃん』を分析してみます。

[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?

 コンパクトこそが、アッコちゃんの魔力のもとです。コンパクトという魔法道具が、アッコちゃんを魔法少女にしています。

 そのコンパクトは、「鏡の国にいる、鏡の妖精」にもらっています。鏡の国という魔法の世界が設定されている点が、『魔法使いサリー』と共通しますね。

[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?

 アッコちゃん自身は、普通の人間ですから、普通に大人になります。
 けれども、その時、彼女は、魔法を使えなくなっています。なぜなら、アニメの最終回で、彼女はコンパクトを手離しているからです。コンパクトがなくなれば、彼女は普通の人間です。

 『魔法使いサリー』や『コメットさん』では、魔法の国の住人である主人公自身が、国へ帰ってしまう、という最終回でした。

 アッコちゃんの場合は、魔法の道具だけが、魔法の国に帰るんですね。これは、主人公と魔力とが切り離された設定だから、できることです。

[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?

 アッコちゃんこそが、変身する魔法少女の元祖です。コンパクトの魔法は、もっぱら、変身することに使われます。

 ただし、それは、「魔法少女としての姿」に変身するものではありませんでした。
 彼女は、例えば看護婦―今の看護師―とか、スチュワーデス―今の客室乗務員―とか、当時の少女たちが憧れた職業の人になります。

 ストレートに、少女たちの願望を表わしたら、こういう形になるでしょう。

 少女たちが、「魔法少女としての姿」に変身するようになるのは、もう少し、待たなければなりません。
 とはいえ、アッコちゃんは、魔法少女の要素に「変身」を強く刻んだことで、歴史に残ります。

[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?

 これは、先ほどから何回も書いているとおりですね。アッコちゃんは、魔法のコンパクトを持っています。

[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?

 『ひみつのアッコちゃん』には、シッポナという猫が登場します。アッコちゃんのペットです。
 しかし、シッポナは、まったく普通の猫です。「魔法少女もの」におけるマスコットとは、言いがたいです。

[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?

 これも、先ほどから書いているとおりです。アッコちゃんは、変身する時と、変身を解く時とに、呪文を唱えます。


 「生まれつき」型から脱することで、『ひみつのアッコちゃん』は、異類来訪譚から脱しました。このために、話のバリエーションが増えました。
 これについては、また次回以降に語ります。





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