魔法少女の系譜、その139~『魔女っ子チックル』の髪型と、ダブルヒロインについて~
今回も、前回に続き、『魔女っ子チックル』を取り上げます。
まずは、前回の訂正から。
前回、チックルのツインテールの髪型について言及した時に、大ヒット少女漫画『キャンディ・キャンディ』のヒロイン、キャンディス・ホワイトの髪型から来ているのでは、と書きましたね。
読者さんの御指摘により、それが、誤りであることがわかりました。
『魔女っ子チックル』の原作は、漫画家の永井豪さんとダイナミックプロです。永井豪さんの作品には、一九六〇年代から、ツインテールの少女キャラクターが登場していました。『ハレンチ学園』のアユちゃん、『マジンガーZ』のガミアQなどです。
チックルは、これらの永井豪キャラの流れの中にあるキャラクターです。
髪型がツインテールでなくても、永井豪さんの描く少女キャラは、物理的にも、心理的にも、少年キャラに負けないほど強いことが多いです。自分の意見は、遠慮せずに主張しますし、気に入らない相手は、男でも投げ飛ばします。『ハレンチ学園』の十兵衛ちゃんや、『キューティーハニー』の如月ハニーなど、みな、そうですね。
永井豪さんのキャラクターの中では、むしろ、『魔女っ子チックル』のダブルヒロインの一人、チーコが、異例です。おとなしくて、慎重で、常識的で、押しが強くありません。
これは、活発なチックルと対照的な性格にしたのでしょうね。同じような性格では、ダブルヒロインの良さを生かせませんものね。
日本のテレビアニメの中に現われたツインテールヒロインとしては、チックルは、最初期の一人です。
『ハレンチ学園』は、アニメ化されませんでしたし、『マジンガーZ』のアニメでは、ガミアQは、等身大の美少女ではなく、巨大な機械獣として描かれました。ガミアQが、等身大の美少女キャラとして登場するのは、漫画版の『マジンガーZ』だけです。
アニメで、永井豪さんのツインテール美少女キャラが描かれたのは、チックルが最初ではないでしょうか。
なお、前回に書きましたとおり、『魔女っ子チックル』が放映されていた当時には、髪型を示す「ツインテール」という言葉は、まだ、存在しません。一九七〇年代に「ツインテール」といえば、ウルトラ怪獣の一種のツインテールを指しました。
さて、『魔女っ子チックル』の大きな特徴の一つは、ダブルヒロインという点ですね。この発想は、どこから来たのでしょうか?
これについては、発想の源が、明らかにされています。それは、漫画やアニメではなく、一九七〇年代の芸能界から、ヒントを得ていました。
一九七〇年代の後半、日本の芸能界は、女性二人組の芸能人に席巻されていました。ピンク・レディーです。ミーとケイという、二十代の二人の女性歌手チームでした。
当時、生まれていない方でも、ピンク・レディーの名前くらいは、聞いたことがあるのではないでしょうか。デビュー・シングルの「ペッパー警部」をはじめ、「S・O・S」、「カルメン‘77」、「渚のシンドバッド」、「ウォンテッド(指名手配)」、「UFO」、「サウスポー」と、出す曲出す曲が、ことごとくミリオンセラーになりました。まさに大旋風、「ピンク・タイフーン」(←この題名の曲もありました)でした。
当時を知らない方は、ピンク・レディー全盛期に、小学生や中学生だった方に、話を聴いてみるといいです。当時の女子小学生や女子中学生は、ほぼ全員が、ピンク・レディーの曲を、歌って踊れました。学校の教室で、よく、ピンク・レディーの曲を歌って踊る児童・生徒が見られたといいます。それが、日本全国で、一般的な遊びだったのですね。
本当は、男子でも、歌って踊れる人が多数派でしたが、男子は恥ずかしがって、人前ではやらなかったと聞いています。男子の場合は、よほど開き直っている人か、文化祭などでネタとしてやるか、くらいだったようです。
全国津々浦々の小学校・中学校で、児童・生徒が、同じ一組の芸能人の物まねをして遊ぶんですよ。こんな芸能人、最近います? しいて言えば、AKBグループですか。
でも、AKBグループの場合は、文字どおりの「グループ」ですからね。何十人もいる中には、誰でも、一人くらい、気に入る人がいるでしょう。
ピンク・レディーは、二人だけですからね。たった二人のグループが、一九七〇年代後半の日本を、大旋風に巻き込みました。二〇二〇年現在に振り返ってみても、日本の芸能界史上、決して消すことのできない大記録を打ち立てました。
そして、同じ一九七〇年代後半に、普通の芸能界とはちょっと違うところからも、女性二人組が出て、大人気となりました。
それは、女子プロレスの世界に現われました。ビューティ・ペアです。ジャッキー佐藤とマキ上田とのコンビでした。
御存知の方もいるでしょうが、女子プロレスの世界は、ベビーフェイス(善役)とヒール(悪役)というキャラ付けがされています。反則も辞さない悪辣なヒールを、ベビーフェイスがやっつけるというていで、試合が行なわれます。
ビューティ・ペアは、ベビーフェイスの二人組でした。相手役のヒールは、ブラック・ペアという女性二人組でした。
ビューティ・ペアは、「かけめぐる青春」という曲で、レコード・デビューもしました。試合の前に、リングで歌うのですよ。この曲が、大ヒットしました。女子プロレスの世界から出た二人が、芸能界にも、大きく食い込みました。
ビューティ・ペアとピンク・レディーとは、奇しくも、同じ昭和五十一年(一九七六年)にデビューしました。活動を停止したのも、ビューティ・ペアが昭和五十四年(一九七九年)、ピンク・レディーが昭和五十六年(一九八一年)で、わずか二年違いです。
一九七〇年代後半の日本の娯楽文化は、ピンク・レディーとビューティ・ペアとに、大きく揺り動かされていました。当時は、女性二人組が、「来ていた」わけです。
この流れが、テレビアニメに波及したのが、『魔女っ子チックル』です。チックルとチーコが、「ラッキーペア」と名乗ったのは、ビューティ・ペアの影響でしょう。
ピンク・レディーでもビューティ・ペアでも、二人の立場は、同じです。二人とも歌手、二人ともプロレスラーですね。
チックルとチーコのラッキーペアは、立場がまるで違います。チックルは、魔法の国から来た魔女っ子で、自在に魔法を使います。チーコは、人間界の、まったく普通の少女です。
この違いが、『魔女っ子チックル』の面白いところです。これと似た設定は、二〇二〇年現在でも、ほとんど見ませんね。
一九七〇年代には、複数の魔女っ子を登場させる作品自体が、極めて珍しいものでした。有名なところでは、『魔女っ子メグちゃん』がありますね。これは、メグとノンという二人の魔女っ子を、ライバルとして登場させました。
この設定は、卓越しすぎて、なかなか、後追い作品が出ませんでした。『魔女っ子メグちゃん』とそっくりな設定の『シュガシュガルーン』が登場したのは、二〇〇〇年代に入ってからです。
魔女っ子と、そうでない普通の少女とのダブルヒロイン制では、NHK少年ドラマシリーズの『まぼろしのペンフレンド』や『明日への追跡』があります。特撮ドラマの『ぐるぐるメダマン』も、魔法道具型の魔女っ子(もとは、普通の少女)と、生まれつき型の魔女っ子との組み合わせでしたね。
チックルとチーコの「ラッキーペア」の組み合わせは、これらの前例作品から、ヒントを得ているのかも知れません。
ピンク・レディーやビューティ・ペアに触発されたなら、「ダブルヒロイン」という設定は、最初から、決まっていたのでしょう。二人を同じ魔女っ子にしないで、一人を普通の少女にしたのは、「視聴者の視点キャラ」が必要だと考えられたからではないでしょうか。
最初の頃のチックルは、いたずらっ子で、人間界の常識がなく、視聴者が感情移入しにくい存在です。普通の少女のチーコを置けば、彼女の視点で、感情移入できます。
『魔女っ子チックル』は、放映当時の芸能界に、直接、影響を受けたことがはっきりしているアニメ作品です。どんな作品でも、時代の流れの中で生まれるのですから、同時代の文化の影響を受けます。ジャンルには、関係なく。
しかし、『魔女っ子チックル』のように、放映されてから四十年以上も経ってしまうと、当時の社会状況や、娯楽文化の在り方などが、わからなくなりがちです。特に、「アニメ作品と、実際の芸能界」のように、ジャンルが違うと、そうです。
ある作品を理解するためには、その時代ごと、見なければいけません。アニメや漫画を知るためには、アニメ作品や漫画作品「だけ」を見ていては、わからないということです。
今回は、ここまでとします。
次回も、『魔女っ子チックル』を取り上げます。
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