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魔法少女の系譜、その183~『花の子ルンルン』を八つの視点で分析~


 今回も、前回に続き、『花の子ルンルン』を取り上げます。
 八つの視点で、分析します。

[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?
[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?
[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?
[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?
[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?
[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?
[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?
[8]魔法少女は、作品中に、何人、登場するか?

の、八つの視点ですね。

[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?

 ヒロインのルンルンは、「生まれつき型」と、「魔法道具型」との混合した魔女っ子です。作中では、一切、魔女っ子とも、魔法少女とも呼ばれません。「花の子」で通されています。

 ルンルンは、花の精の血を引く「花の子」ですが、それを知らずに、十二歳まで育ちました。
 ある日突然、花の精が変身した猫(キャトー)と犬(ヌーボ)がやってきて、魔法道具の「花の鍵」を渡されます。それによって、ルンルンは、魔法の力で「変装」できるようになりました。それまで、ルンルンは、魔法を使うどころか、魔法の存在すら知らずにいました。

 「花の鍵」を、花の精の血を引かない一般人が使えるかどうかは、不明です。物語中に、一般人が「花の鍵」を使う場面が登場しないからです。
 敵役のトゲニシアが「花の鍵」を使ったことがあるため、花の精か、その血を引く人間であれば、ルンルンでなくても使えることが、確認できます。

 少なくとも、ルンルンに関して言えば、「花の子」の素質と、魔法道具の「花の鍵」とがそろわなければ、魔法は使えません。この点は、やはり、「生まれつき型」と「魔法道具型」の混合した『魔法のマコちゃん』に似ています。

 「花の鍵」が途中でバージョンアップしたことにより、ルンルンは、もっと強力な魔法を使えるようになります。単に「変装」するだけでなく、服装にふさわしい能力も使えるようになります。
 ルンルン自身は何も変わっていなくて、「花の鍵」が変わったことにより、魔法の力が上がります。ルンルンは、魔法道具型に近い魔法少女と言えますね。


[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?

 最終回で、ルンルンは、フラワーヌ星の王妃になることを断り、地球に帰って、普通の人間として生きることを選びます。魔法道具の「花の鍵」も手離してしまうので、もう魔法は使えません。
 魔法道具型の魔法少女ものとして考えれば、「魔法道具を手離して、普通の人間に戻る」のは、お約束のパターンですね。『ひみつのアッコちゃん』以来の伝統を継いでいます。

 『花の子ルンルン』がユニークなのは、そこに、婚約者が付いてくることです。
 フラワーヌ星の王になるはずだったセルジュは、王としての責任と、ルンルンに対する思いとの板挟みになって、悩みます。悩んだ末に、ルンルンへの思いを貫きます。王座を弟に譲って、ルンルンと一緒に地球へ戻ります。花の精としての生き方を捨てて、普通の地球人になることを選びました。

 これは、すごい決断ですよね。当時の魔法少女ものとしては、ヒロインの相手役男性が登場するだけで珍しかったのに、そのうえ、彼が、ヒロインのために、こんなに重い決断をしてくれるなんて……。きっと、リアルタイムで見ていた女の子たちは、多くが、感動したと思います。
 物語は、ルンルンとセルジュとが結ばれて、末永く幸せに暮らすことを暗示して、終わります。王道のロマンス小説、あるいは、少女漫画的結末ですね。「めでたし、めでたし」のおとぎ話的結末とも言えます。

 ただし、『ルンルン』は、伝統的なおとぎ話とは違って、「異類との婚姻」が成功しています。花の精のセルジュと、「花の子」とはいえ、普通の人間に近いルンルンとが、めでたく結ばれているからです。しかも、二人は、「異界」のフラワーヌ星で暮らすのではなく、この世の地球で暮らします。
 これは、伝統的な口承文芸では、ほとんどあり得ない設定です。異類は、一時的に結ばれても、最終的には引き裂かれるのが、強固なお約束です。例外的に結ばれる場合でも、この世ではなくて、異界で暮らすのが、これまた、お約束です。

 『花の子ルンルン』は、伝統的な口承文芸の型や、それまでの「魔法少女もの」の型を利用しながらも、そのお約束を破って、現代的な少女の夢を描きました。優れた作品とは、こういうものなのでしょう。


[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?

 ルンルンは、魔法道具の「花の鍵」を手に入れたことにより、「変身」できるようになります。
 ただし、最初の「花の鍵」の能力は弱くて、「変装」するだけでした。二代目の「花の鍵」で、服装に応じた能力が使えるようになって、「変身」と言えるようになりました。

 ルンルンは、「魔法少女としての姿」に変身することは、ありません。いろいろな職業の人に、「変装」または「変身」します。この点も、先行する魔法道具型魔法少女もの『ひみつのアッコちゃん』や『ふしぎなメルモ』と同じですね。
 この頃は、まだ、「魔法少女としての姿に変身する魔法少女」は、一般的ではありませんでした。『キューティーハニー』や、『好き!すき!!魔女先生』が、稀有な例外です。


[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?

 何度も書いていますとおり、ルンルンは、魔法道具の「花の鍵」を持ちます。初代の「花の鍵」は、途中で壊れてしまい、二代目の「花の鍵」が登場します。
 二代目の「花の鍵」は、初代のものより、強力になりました。一九七〇年代には、このような、魔法道具のバージョンアップは、たいへん珍しいことでした。

 魔法道具の形自体は、『ひみつのアッコちゃん』リスペクトで、コンパクトに似た形です。ルンルンは、普段、ブローチとして使っていますが。


[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?

 マスコットは、二頭、登場します。ネコのキャトーと、イヌのヌーボです。彼らの正体は花の精で、母星のフラワーヌ星では、ヒト型をしています。
 彼らは、外見は普通のネコやイヌの姿をしていますが、普通のヒトのようにしゃべります。そのことは、ルンルンと、彼女の祖父母以外の周囲の人には、秘密にされています。
 そんな危なっかしいことをするなら、普通のヒトに化けてくればいいのに、と思いますよね(笑) 

 それを、わざわざネコとイヌにしたのは、「マスコット」として、かわいさを出したかったからでしょう。
 なにげない設定だったのかも知れませんが、この点が、のちの魔法少女ものに対して、巨大な影響を与えることになります。「魔法少女を任命するマスコット」という型を作ったからです。
 のちの『美少女戦士セーラームーン』を見れば、わかりますよね。ヒロインの月野うさぎは、普通の女子中学生でしたのに、ある日、ルナという「しゃべる黒猫」と出会って、自分が「月の戦士セーラームーン」だと知らされます。『セーラームーン』の重要な要素のいくつかが、『花の子ルンルン』の時点で、すでに登場していました。


[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?

 これは、物語の前半と後半とで、変わります。物語の前半、初代の「花の鍵」を使っている間は、ルンルンは、呪文を使いません。

 二代目の「花の鍵」になると、「フレール、フレール、フレール」という呪文を使うようになります。なぜ、二代目になって、急に呪文を使うようになったのか、作中に説明はありません。

 制作者側の事情を考えるに、より「魔女っ子感」を出したかったからでしょうね。
 初代の「花の鍵」の能力が弱すぎたこともあって、最初の頃の『ルンルン』は、魔女っ子アニメというより、ロードアニメの色彩が濃い作品でした。それなりに面白かったのですが、やはり、「女の子の夢」である魔女っ子感を打ち出したかったと思われます。

 なお、敵役のトゲニシアが魔法を使う時にも、呪文を唱えます。トゲニシアが、大魔法「花粉風」を使う時には、ストレートに「花粉風よ!」と唱えます。これは、物語中、一貫して、変わりません。


[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?

 ルンルンが「花の子」であることや、「花の鍵」のこと、キャトーとヌーボがしゃべれることは、ごく一部の人を除いて、秘密にされています。知っているのは、ルンルンの祖父母と、セルジュ、敵役のトゲニシアとヤボーキ、ごく少数のゲストキャラだけです。
 時々、キャトーやヌーボがしゃべるところを目撃されてしまったりして、危機に陥ります。

 視点は、ヒロインのルンルンから離れることは、少ないです。キャトーやヌーボの視点になることはあります。時々、トゲニシアやヤボーキの視点になることもあります。
 この点は、先行する魔女っ子ものを、そのまま受け継いでいますね。

 ただ、『ルンルン』の場合は、ロードアニメなので、舞台とキャラクターが、どんどん入れ替わります。土地ごとの環境や風習などを紹介するために、ゲストキャラの視点で描かれる場面も、ほぼ毎回、入ります。そういう場面は、もちろん、魔法と関係ない場面です。

 『ルンルン』のユニークさは、ここにも、表われていますね。魔女っ子アニメであり、かつ、ロードアニメなので、このような視点が必要になります。
 こういう手間がかかるために、『花の子ルンルン』を継ぐ魔女っ子ロードアニメは、なかなか現われないのでしょう。


[8]魔法少女は、作品中に、何人、登場するか?

 『花の子ルンルン』には、魔法少女が、二人、登場しますね。ヒロインのルンルンと、敵役のトゲニシアです。

 放映当時は、魔女っ子アニメに、複数の魔法少女が登場するのが、珍しい時代でした。この点でも、『ルンルン』は、先進的でした。先行作品では、『魔女っ子メグちゃん』くらいでしたね。
 『ルンルン』に敵役のトゲニシアが登場したのは、『メグちゃん』の影響が大きいと思います。『メグちゃん』は、同ジャンルの大ヒット作ですから、あやからない手はありません。両作品とも、制作が、同じ東映動画ですし、影響がないと考えるほうが、不自然でしょう。

 『メグちゃん』では、ヒロインのメグのライバルとして、ノンが登場しますね。貴族的で、魔法の力も優れているノンは、のちの「悪役令嬢」タイプをほうふつとさせます。魔法の力が優れていても、人間の心に疎く、やや冷たい点は、メグと対照的です。
 トゲニシアは、ノンをもっと意地悪にした感じの悪役ですね。美少女で、魔法の力が優れている点は、ノンと同じです。けれども、人間に対する同情心はひとかけらもなく、平気で、人の心を踏みにじります。困っている人を見捨てられないルンルンとは、これまた対照的です。

 ルンルンの「七色の花探し」の旅は、トゲニシアがいてもいなくても、成り立ちます。
 とはいえ、トゲニシアのような悪役がいたほうが、ドラマが生まれやすいですね。圧倒的に、作劇がやりやすいでしょう。
 トゲニシアという悪役魔法少女を登場させたのは、大正解だったと思います。


 今回は、ここまでとします。
 次回も、『花の子ルンルン』を取り上げます。



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