ストレスとパフォーマンス
ストレスの影響
過剰なストレス、慢性的なストレス状態は、仕事のパフォーマンスに大きな悪影響を及ぼします。ここでいうストレスとは、必ずしも職場の環境や仕事上での出来事によるものだけではなく、プライベートで起こったことに起因するものも含みます。ストレスの要因(ストレッサー)が職場であろうが家庭内であろうが、結果として仕事上のパフォーマンスに影響を及ぼします。過度なストレスが溜まり、働く人たちのウェルビーイング(Well-being)「幸福」「健康」度合いが低下したとき、仕事のクオリティーも低下するからです。
過剰なストレスは、身体的には睡眠障害、頭痛、高血圧をもたらし、不安、苛立ち、落ち込みといった感情的な不安定さも引き起こす。さらに、知的活動においても、集中力・意欲の欠如、判断ミスなどを招くことが知られています。
ストレス状態が継続すれば、より深刻な身心の健康状態を脅かすことになります。その結果、欠勤や遅刻、離職率などが増え、職場のモラル低下にもつながります。2018年の調査データによると、16%の人がストレスによって仕事を辞めざるを得ない経験をし、また米国のデータですが、毎年12万の人々が仕事に関連したストレスが原因で死亡しています。
幸福感でパフォーマンスが向上する
逆にストレスを軽減してWell-beingが向上することで幸福感(ハピネスレベル)が高まるとパフォーマンスも向上するという実験結果があります。矢野和男氏によると「幸福な人は、仕事のパフォーマンスが高く、クリエイティブで、収入レベルも高く、結婚の成功率が高く、友達に恵まれ、健康で寿命が長いことが確かめられている。幸せな人は、仕事の生産性が平均37%高く、クリエイティビティは300%も高い」 そして、矢野氏がここで発見した面白いことは、『仕事ができる人は成功するから、その結果「幸せ」になる』という一般的なロジックの方向ではなく、「幸せな人」は「仕事ができる」、つまり「ハピネスレベルアップ」→「パフォーマンスアップ」という調査結果です。
積極的な行動がハッピー度を高める
この幸福感を高めるには、自分から積極的に行動を起こすことが重要だといいます。自らの意図をもって何かを行うこと、ちょっとした行動を変えることでハピネスレベルが高まるのだそうです。さらに面白いのは、その行動を起こした結果はそれほど重要ではなく、行動の結果が成功したかどうかに関わらず、「行動を積極的に起こしたか」それ自体が、ハッピネスレベルをアップすることになるのだそうです。これは嬉しいニュースですね。
こういう背景もあり、最近は多くの企業が、社員のストレス問題により積極的に取組始めています。さらに先進的な企業においては、従業員のWell-beingをいかに高まめるかを真剣に議論し、予算をつけて様々な社内プログラムをスタートさせています。
ストレスがリーダーシップ力・学習力に大きく影響
仕事でのパフォーマンスという意味において、ストレスの影響を受ける重要な能力の1つはリーダーシップ力。慢性的なストレス状態は、認知能力や感性を弱め、リーダーがその能力を発揮することを妨げます。そして肝が座っていない反応的な言動を触発してしまいます。将来のビジョンを示す Visionaryであるべきリーダーが、目の前のことに反応的なReactionaryと化してしまう。また、記憶力や学習力もストレスから大きな影響を受けます。新しい「記憶」は脳内の海馬によってコントロールされ、「学習」は意思決定力と同様に前頭葉にて制御されています。これら脳の領域は個々に機能しているわけではなく、相互コミュニケーションによって学習を促しています。もちろん記憶は学習とはイコールではないにしても、学習活動において大きな役割を担っているため、記憶力がストレスによって弱められると、結果として学習力の低下も招くことになります。
こうして慢性的ストレス状態は、学習や記憶力に大きな影響を及ぼします。特に知的労働をする人にとっては、新しい概念を学び、常に更新される最新情報を吸収することは仕事の大きな部分を占めます。そのような既存の知識構造に新たに得た情報を統合するといった学習活動を、ストレスに対する生理学的反応が妨げとなります。結果、知的活動で重要なプロセスである、新しい情報による知識のアップデートや概念的理解の深化がうまくできなくなってしまいます。これは、知的活動を行う個人にとっても企業にとっても深刻な問題です。
この課題に取り組むためにも、まずストレスのメカニズムを理解することが重要でしょう。それを理解することは、仕事のパフォーマンスを上げるには何をすべきかを考えるに大きなヒントとなるからです。そこで次回は、このストレスのメカニズムについて説明したいと思います。
- Takeaways:
・ストレス状態が慢性化すると、社員の健康状態および仕事のパフォーマンスが悪影響がでる
・ストレスを軽減し、従業員の幸福度を高めることで、職場としての生産性・創造性向上が期待できるため、最近では多くの企業が、従業員のストレス問題により積極的に取組始めている
・先進的な企業においては、従業員のWell-beingをいかに高めるかを真剣に議論し、予算を付けて様々なプログラムをスタートさせている
(参考資料)
Yono, K (2014) 「データの見えざる手」(矢野和男)
Korn Ferry (2018). Workplace Stress Continues to Mount
Goh,J.,Pferrer (2015) The Relationship Between Workplace Stressors and Mortality and Health Costs in the United States.
Waller, L. (2014) Neuroscience and leadership development
Vogel,S. & Schwabe,L. (2016) Learning and memory under stress