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○○山とサクセス - 僕は、再び、文章を書きはじめた。

 2005年6月9日––––僕は、再び、文章を書きはじめた。

 小学生の頃から作文は嫌いじゃなかったし、バンドをやっていたときもレコードメーカーに入ってディレクターになってからも歌詞は書いてきたけど、こういった文章を書きはじめたのは、当時の上司からミクシィに招待されてからだ。

 日記と呼ばれるシステムに、何でもいいから文章を投稿するよう命じられたのだった。

 かくして、僕は、再び、文章を書きはじめた。

 最初に書いた日記のタイトルは––––

「○○山とサクセス」だった。



 今年の夏は、一度は、海に行きたい。

 きれいな水が好きだ。近年、近付いていないというのもある。下手すれば、次に大量の水に触れるのは「子供が出来てからかも知れないな」などと思い、未来を懐かしんでいる不思議な気分だ。

 そういえば、中学3年間のどれかの夏休み(おそらく中2)に、県営プールに行くのが大いに流行った。決まり切った友人たちと毎日のように通った。結構、立派で、大きい。入り口の前の売店でラムネやアイスを購入し、学校では禁止の整髪料をここぞとばかりに塗りたくる。帰りのロッカールーム、サクセスのムースをみんなで使い回した。

 なぜか、サクセス––––近所の神社や公園に夜店が出るときなんかは、気合いを入れてセットし、へんてこなツンツン頭を並べた。サクセスは、当時から成人向けの商品だったが、僕の中では、今も、ずっと、青春真っ只中の匂いで、サクセスが香ると、きっちりセンチメンタルになる。

 脳内で、匂いを感じる部分と記憶を司る部分は隣同士なんだとか。だから、視・聴・味・触のどれよりも「嗅」という感覚が、もっとも記憶に繋がりやすいらしい。頷く一方で、音楽でも、きっちりセンチんなるよ、とも、思う。

 でも、音楽が鳴らす記憶と匂いが醸す記憶とでは、出てき方も、感じ方も、全然、違う。気付くと、その違いだけでかなり楽しめる。そういえば、最近、サクセスの香りを嗅いだことがない。僕の記憶が薄れて、気付かないだけなのか……。

 県営プールは「○○山」って小高い山の中腹にあった。きれいな名前だけど、紅葉はイマイチだった。でも、てっぺんのアスレチックからは海が見えるのだ––––故郷の○○○湾が。

 あゝ、無性に海が見たい。

(結局、これ以降、僕が初めて泳いだのは、2015年の夏。この日記を書いてから、ちょうど十年後。まさに○○山の県営プールへ息子と行ったが、新築されて、当時の面影は跡形もなかった)


【 マ ガ ジ ン 】



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