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書評的日記(1) オルハン・パムク「僕の違和感」

書評的な日記第一段。トルコの作家オルハン・パムクの「僕の違和感(上・下)」(宮下遼=訳, 早川書房, 2016)。読んだのは、確か2017年の冬頃であったと思う。冒頭は、主人公が娘と駆け落ちするところから始まる。ぱっと手にしたとき、叙事詩の約束-真ん中から語り始めよ-によって書かれているなと思い、胸を高鳴らせた。

叙事詩と述べたのは、トルコの歴史や民族をメヴルトという青年の生涯を通して描いているためだ。タイトルの「僕の違和感」であるが、これは、パムクの描くゴッドファーザーなのだと気づいた。メヴルトは、一目惚れの相手へ恋文を送り、拐かしの風習によって結婚する。伝統的な家父長制と西欧化が進む都市との間で悩みながらも信仰を持って生きるメヴルトは、馬鹿にされながらも物質や金銭的な価値に捉われることのない愛おしい存在である。悲しいかなメヴルトは、二人の娘を育てあげるものの再婚ののちついに男児を残すことがなかった。メヴルトの書く恋文は、一度目にした瞳への賛辞へ終始する。しかし、そこに込められた詩情こそ、本当の意味で近代的なものでなかっただろうか。そこには、物語上のトリックがあるので、気になる方にぜひ読んでもらいたい。

印象的で記憶に残るのは、拐かす森の幻影的な描写や「ボザ」を売り新旧入り混じる街の道を行く場面である。これが叙事詩的な英雄譚と異なるのは、あくまで主人公の主観を通して描かれた恋愛の物語だからだ。そこにメヴルトという人物と著者の主張がある。

メヴルトの生きたイスタンブール、一度は訪れてみたい都市だ。本日のこと、書店で翻訳されたハードカバーの本を買ったのは、思えばこのとき以来であった。元はといえば、「アラビアンナイト」を求めていたのだが、書店へ行くときには既に忘れていた。

次回へ続く(?)

ぎんが 

#読書感想文  #日記 #オルハンパムク #宮下遼 #僕の違和感 #早川書房

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