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棉摘み(秋) :

防災の日(初秋)/ 棉(仲秋)/  アンモニア水(三夏) 

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 関東大震災は、大正12 年9 月1 日に発生しました。それにより、9 月1 日は防災の日と制定されています。

 夏休み明けの秋晴れの日、通っていた学校で防災訓練が行われました。理工系の学校で校長が化学科出身であったため、ナトリウムの切片を水に入れて発火させる朝礼がありました。ナトリウムやカルシウムいったアルカリ金属やアルカリ土類金属の単体は、水と反応して激しい火を散らします。昔、京の賀茂川へ薬包紙に包んだ金属ナトリウムを投げ込み、水柱を立てた後、大量の魚が浮かんだとか浮かばないとか。どうして化学を学ぶ人間は、こう頭の悪いのばかりなのだろうと。こう嘆く学生もまた、新入生の勧誘で悪目立ちをしようと、硝酸と硫酸から調製した混酸に脱脂綿を漬けこみ、一晩乾燥させた綿火薬なるものを新入生の目の前で燃やしているのです。綿の主成分は、セルロースという繊維です。綿火薬というのは、ニトロセルロースといって火をつけると自ら酸素を供給する自己促進作用を持つため、煙を出すことなく一瞬で燃え尽きます。これら火薬の原料となる硝酸は、アンモニアを原料として合成されます。アンモニア水は、虫刺されの痒みどめなどに使用されていて、強烈な臭いがします。

 アンモニアの製造を行なっていたチッソという会社は、メチル水銀を触媒として塩化ビニルや酢酸の製造を行いました。そこで水俣病が発生します。寺田寅彦が『流言蜚語』を書いた大正13 年は、まだこの公害が発生していませんから、科学歳時記のひとつとしてこの公害を加えてよいかと思います。後に『公害原論』と題した講義を行った宇井純の兄弟の教え子にあたる、細野秀雄がアンモニア合成の触媒を開発しているというのは、面白いです。また、先ほどの綿火薬の話に出た学生の後の指導教員は、宇井純の出身であり、チッソの競争相手でもあった企業の出身者でした。安易に就職や進学を考えていたその学生にとって、化学によって被害を受けた人がいるという事実は、痛切に響きました。繊維は面白いけれど、ときとして技術が先行し、あるいは人の思惑が先行して、苦しんでいる人の声に気づかなくなることがあるようです。覚悟なしに化学に携わることは、できないのだと知りました。震災によって発生した放射能汚染と原子爆弾による汚染、これらも科学歳時記に加えるべきテーマです。

綿火薬作りて思はざれば昏し

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 写真は、渡辺健一郎 様の作品です。みんなのフォトギャラリーから拝借いたしました。

ぎんが

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