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自由俳句

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#jhaiku

#25 レバニラ

#25 レバニラ

レバニラを炒め客席へと視線

 昼すぎ中華料理屋へ行くと、まだ活気がある。隣の席の男へ、湯気に包まれたレバニラ炒めとご飯が運ばれてきた。厨房の店主は、客席へ視線を配りながら既に人数分の炒飯を作っている。この視線を前にしては、中途半端な食べ方などできないと、目の前の三皿を平らげた。

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   レバニラ

初場所の実況中継殺伐と

髪のざらつくや車窓へ肘かけて

三日月となる爪春の兆しけり

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#23 冬の山

#23 冬の山

冬の山分け入って分け入って父の背中

 「分け入っても分け入っても青い山」という種田山頭火の句があります。この句だけは、ずっと印象に残っていて、山頭火の日記や句集を読んでもこの句から受けた人物像は、ずっと変わりません。

 2022 年、よろしくお願いいたします。

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   冬の山

ばらばらと手より十本の衣紋かけ

トナカイの右角畳むクリスマス

文藝春秋を聖夜の卓へ置く

あかぎれの指が

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自由俳句 #21 鳥鍋

自由俳句 #21 鳥鍋

腹すかせ行くよ冬至の月の下

 冬至の空は、明るく雲が速く流れていく印象です。忘年会で集まった座の上に月が浮かんでいます。お酒か寒さのせいか目尻に涙がたまり、光を滲ませます。

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   鳥鍋

手の内へ紙の把手を三つ提げ

電飾や空へと掛けるオリオン座

金色のリボンが袋の口絞る

鳥鍋や箸を持つ手の薬指

自動販売機開けば駅寒し

四色のマークの車街冴ゆる

背表紙の分厚さ第二関節ほど

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自由俳句 #20 ありがとさん

自由俳句 #20 ありがとさん

「止まりますランプ」は赤ぞありがとさん

クリスマスが近づいて街の賑わいを感じます。「有りがたうさん」という、川端康成の小説を原作とした映画がありました。伊豆から東京へ向かうバス、道ゆく人とすれ違うたびに運転手は「ありがとう」と声をかけて行きます。

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   ありがとさん

唐草の風呂敷置かれバスの棚

冬の田の畦踏みならす獣をり

ふと悲し環状線を冬の暮

外套は吸はぬがゆえに煙草臭し

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自由俳句 #19 パラジウム

自由俳句 #19 パラジウム

 パラジウム塩は、電極や有機反応の触媒として使用されます。試薬は、数グラムでかなりの値段したような気がしました。実験の予算が出て、高い外套を買うという心理を想像しました。

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   #19  パラジウム

木枯のやう牛運ぶベクトルは

シロイルカ閉じ込め冬の海無限

数列や子猫の毛並みはえそろふ

人の語を鸚鵡返しす北風《きた》の中

パラジウムは匙三万とコート買ふ

曲者だ迷彩柄の外套は

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#18 左拳

#18 左拳

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   #18 左拳

力なき左拳の荒れにけり

一トンの冬水蛇口より出づる

洗濯前の冬服エコバックの下に

足突つ込む毛布や人魚座りして

冬の蝿から文脈を追ひかける

笑笑とマスク置かるる卓の上

ハロウインや猫がかむりし紙袋

冬布団へ押しよす古新聞怒涛

十一月五日母校の記事古りぬ

みかん剥く塗料のつきし爪の端

ぎんが

自由俳句 #15 秋の陽

自由俳句 #15 秋の陽

柚子五つ袋の皺を透かしたれば

薄手の袋を透かせば摘んだばかりの柚子が入っています。もうすぐ立冬。秋もわずかです。

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   ♯15 秋の陽

紅茶から庭にコゲラの話へと

夕食の前のポテチとみかんの皮

みそ汁や白菜のほか輪ぎりして

回送の幼稚園バス柿渡る

選挙来て校庭の葉の二三枚

看板の文字はつきりと刈田行く

煙突から煙今年の豆腐はどう

小銭ばかりの財布を椅子に行く秋ぞ

ひと

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自由俳句 夏座敷

自由俳句 夏座敷

軒近き畳濡れたり夏座敷

 障子をとり広々とした座敷には、にわか雨がふきこみ、縁側と畳を濡らしています。隣の竹林から涼しい風が吹いてきました。

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   夏座敷

雀跳び羽搏く天の高さかな

紫陽花の萼へかかりし傘の水

軽自動車の鏡紫陽花へ寄せ

珈琲の混ざり雲ゆく夏マスク

虹見えさう雲の稜線顕なり

夏落葉掻く警察学校の竹箒

石畳踏み歩きたりぬかり道

稽古場の和太鼓響く舞台かな

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自由俳句 追伸

自由俳句 追伸

追伸やしだれ桜の花は葉に

 手紙を書いたまま出さずにいたら、季節は春から夏へと変わってしまいました。本文のしだれ桜は、既に青々とした葉を茂らせています。

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   追伸

四畳半部屋塵たたず帰省かな

梅雨明や渋谷スクランブル交差点

歌ひたし青葉の県営住宅で

梅雨昏(くら)し燐と硫黄の臭ひして

コウモリや油まみれの換気扇

雨足の近づきゐたる慰霊の日

甚平の父受け流す拳かな

七夕

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