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【掌編小説】春の思い出

「まいったなあ」
「なに、どうしたの?ベランダ眺めて」
「いや、仕事行きたくないなあって」
「五月病には早くない?」
「違うって。ほら、外」
「外? いい天気じゃない」
「だからだよ。風も強いしさ」
「ああ、花粉?」
「そうそれ」
「確かに飛んでそうだよねえ。花粉症酷いの?」
「去年も同じこと言われたよ」
「じゃあ、来年はなーんにも言わないことにする」
「うそうそ、ごめんて。ねえ、薬ないの?」
「去年眠くなるからいらないって言ってたじゃん」
「あー、まあ。……ってか、覚えてんじゃん」
「思い出したの。どうする? 薬」
「あー、持ってく」
「あ、ごめん。なかった」
「なんだよう」
「いーじゃん。どうせマスクするんだし」
「目が痒いんだよ」
「目が痒いのは薬じゃ意味ないでしょうが」
「え。駄目なの?」
「めは、普通目薬じゃない?」
「あー、そっか」
「そうそう。黄砂もあるしね」
「うっわダブルパンチじゃん。そう思うと春ってキツい季節だよなあ」
「去年もそれ言ってた」
「そうだっけ?」
「そうだよ。ウチの空気清浄機羨ましがってたじゃん。ってか、それを口実に何度も家に来て、玄関先で変なアプローチかけてきたのは……」
「あーっ、行ってきます!」
「あっ、待った! 目薬!」


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