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6章 アイヌとゴールデンカムイ

週刊ヤングジャンプ(集英社)で連載されていた「ゴールデンカムイ(野田サトル作)」は惜しまれつつも完結を迎えたが、北海道はアイヌ文化を若い読者にも幅広く伝えることに成功した漫画だといえる。また、週刊モーニング(講談社)で現在連載中の「マタギガンナー」という作品がある。物語はマタギとして狩猟生活をしていた主人公が、今度はオンラインゲームの世界で活躍するという新世界を描く漫画だ。

このように、日本には古来より狩猟採集を生業とする人たちが多く生活していた。過去形で書いたのは、アイヌ民族は、彼らの伝統的な文化や歴史を積極的に継承に取り組む人たちがいる一方で、北海道の地を離れ、進学や就職、結婚を機に東京や大阪といった場所に移り住む人たちが増えているからだ。つまり彼らは、狩猟採集を生業とする生活から離れ、シサム(アイヌからみたアイヌ以外の日本人)が営んできた一般的なライフスタイルに身を置くようになってきたといえる。また、狩猟を生活の中心としているマタギやハンターといった存在の減少からも明らかなように、狩猟文化は我々の生活から離れつつある文化であることは間違いないだろう。

近年ヴィーガン※1やベジタリアンの生き方を採用する人たちが増えており、肉を食べることが良いことなのか、はたまた悪いことなのか、ようやく議論が始まったと言える。

ヴィーガンの生き方を選ぶ動機は人によって様々であるが※2、動物愛護を目的としてヴィーガンを選ぶ人たちにとっては無闇に動物の命を奪う狩猟文化は悪であるという見方が多く、狩猟に携わる人たちが激減している状況もその流れに拍車をかける結果となっている。実際、菜食主義の人でなくとも、生きている動物を殺す狩猟に対しては野蛮であるとか、否定的な印象を持つ人は多いだろう。感情的にも定量的にも、狩猟文化が失われつつあることは明らかである。では狩猟文化の衰退に対してわたしたちは何も手を講じずにいるのだろうか。その選択は間接的に、従事者の減った狩猟文化はそのまま流れに任せて滅びていけばいいと見過ごすことを意味する。狩猟文化が社会にとって必要であるか、この問いに対しゴールデンカムイをはじめとする多くの狩猟文化をテーマとした漫画を用いて答えを探してみたい。

狩猟を生業にしている私たちにとって動物のカムイは重要な神様。動物たちは神の国では人間の姿をしていて、私たちの世界へは動物の皮と肉を持って遊びに来ている

(ゴールデンカムイ、第12話)
(ゴールデンカムイ、第12話)

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