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【本の紹介】『太陽の塔』

『太陽の塔』森見登美彦、新潮文庫、2006年

森見登美彦さん作品はいくつか存じ上げているのですが、他の作品に比べると初心者でも読みやすかったと思います。
私は京都の学生をやっていた時期がありますので、読み進むにつれてあらゆる京都の地名が作中に登場し懐かしさが思い出が蘇ってきました。

本書は京都市内が舞台の、ファンタジー×男子大学生の冴えない失恋話という異色の組み合わせで新感覚な小説です。京都大学農学部5回生(休学中)の「私」が主人公。3回生の時に「水尾さん」という恋人と交際しますが、一年前のクリスマス直前に振られてしまいます。そんな彼の失恋中、再生中を描いた、どこか爽やかなお話でもありました。

とは言うものの、主人公はストーカー行為と言って差し支えないほどの「水尾さん研究」をしています。大丈夫でしょうか、序章から不安が煽られます。私が大切に使っている「愛用の自転車まなみ号」と名付けてしまうセンスにも芋臭さとイケてなさに脱帽です。

また、夜の京大構内において学生が襲われる「京大生狩り」にも遭遇します。見知らぬ4人の若者たちに私と肩を並べて歩き始められていました。私が蹴散らした鉢植えに彼らがつまずき手近な鉢植えを投げつけなんとか逃走。

さらに、突然の「ゴキブリキューブ」の登場。お食事中の方にはぜひ控えていただきたいです。ゴキブリキューブとは、長いこと放置されていた段ボールの中や流し台の下などに見られるようです。私はこのゴキブリキューブを丸ごと袋に収めて、恋敵の遠藤正氏にクリスマスプレゼントとして渡す計画を思いつきます。送りつけたはいいものの報復は一向に来ず。自室の四畳半には「水尾」と読める紙袋が届いていました。中を開けると……。大変なことになりました。

そしてフィナーレを飾るには相応しい、クリスマスイブの四条河原町での出来事。
主人公の良き理解者である(こちらも変わり者の)飾磨大輝氏が「ええじゃないか」と小さな声を発してしまったことにより、井戸浩平氏(法界悋気の権化とも言える大学院生)や男子学生、女子高生など近くの人にどんどん広まっていき「ええじゃないか」が止まらなくなる「ええじゃないか騒動」には本当に頭が混乱しました(もちろん森見ワールドにハマってしまうといういい意味で)。

ちなみに、本書のタイトルである「太陽の塔」は岡本太郎作の大阪万博公園にある大きなオブジェです。私と水尾さんがデートできていた頃に訪れています。彼女は上気した顔で「宇宙遺産に指定されるべきです」と語っていました。この件はとても微笑ましいです。

皆さまもぜひこちらの日本ファンタジーノベル大賞受賞作をお手に取って、爽快、かつ、粘着質な男子大学生の気持ちを味わってみてはいかがでしょうか。

以上、最後までお読みいただきありがとうございました⛩️

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