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【メディッコ本】まえがき公開

まえがき 須藤 誠


自己紹介

 本書を手に取っていただき、ありがとうございます。
 私は本書の編集・執筆を担当した作業療法士の須藤と申します。

 私は生まれも育ちも栃木県で、大学も就職も他県に出たことはありません。私は子どもの頃から本とゲームが大好きで、夢中になると食事の時間をも惜しむほどでした(もちろん、よく親に怒られました)。中学に入ってからは小説や新書も読むようになり、活字から想像される偶像が、映像やイラストを超越する経験に心を躍らせたこともありました。

 本を書くことは、私の人生においてかけがえのない夢でした。

 私は平凡で、田舎に住むどこにでもいる作業療法士の1人です。これといった派手やかな資格もなく、輝かしい経歴もございません。毎日、いつもと変わらない通勤路を走り、仕事をし、帰路が記憶に残らないほどに自動化された習慣を繰り返しています。

 そんな私が今、景色の変わらない田舎で、窓ガラスからの冷気を感じながらキーボードを叩いています。私がどうして本書の執筆をすることになったのか、それには不思議なご縁とタイミングの重なりがありました。

多職種連携で起こしてきた失敗の数々

 私は10年と少しの作業療法士人生を、病院で過ごしています。

 入院された方々と関わるにあたって、作業療法士一人で出来ることには限りがあります。例えば、脳梗塞を起こした方の半身に運動麻痺が生じた場合、起き上がること、立ち上がることだけではなく、トイレでズボンを上げ下ろすこと、ボタンを留めるのに衣服を押さえることが出来なくなります。この時、私たち作業療法士は必要な動作が出来るための工夫と動作練習、そして環境整備を同時並行的に行います。

 ある時、私は考えうる限りで必要な訓練と環境整備を行い、「よし、これで完璧」と思いながらその場を後にしました。
 しかし、次の日を迎えると、多くの問題が出ていたのです。
 ・とある看護師さんから「変な手すりが付いてたんだけど、どういうこと?」
 ・別の看護師さんからは「あの人、寝てばかりで動かないんだけど?」
 ・また別の看護師さんからは「夜にいきなりベッドから起きようとして危なかったわ」
 なぜでしょうか。私が考えうる限り、限られた時間(疾患別リハ3単位60分)で必要な動作方法を伝え、実際に練習し、必要な環境も整備しました。何をどうすれば解決するのでしょうか。

 答えは単純です。

 私は60分 しか 関われていなかったのです。この時は自分が関わることのできる時間だけが、自分の仕事だと思っていました。それ以外の23時間をどう過ごすか、どう工夫すべきかについて自分の考えが及んでいませんでした。

 そしてこの時初めて、多職種連携の重要性を痛感したのです。

 私は多職種連携における数々の失敗経験から、多職種連携を円滑に進めることに関心を持ち続けていました。それは自らの職場内に留まらず、全国津々浦々の他職種がどう考え、どう行動しているのかを知りたいという渇望から、毎年何かしらの学会に参加したほどです。そこでは、作業療法士が他職種とどう連携し、他職種が作業療法士に何を望んでいるのかを知るために、会場中を見て回っていました。

 しかし実際は、どんなに新しい知識や工夫を見つけても、職場は変わりませんでした。

 その問題を抱えているのが、私一人だったからです。

メディッコとの出会い

 2018年6月のこと、私がスマホでSNSを見ていると、『コメディカルの問題はコメディカルで解決しよう』というキャッチコピーが目に留まりました。

 これまでの数々の失敗が走馬灯のように脳裏を巡り、私は求めていたパズルのピースを掴むように、そのページをクリックしました。
 そのページは臨床工学技士兼ライターの宮座美穂(ほっち)が書いた文章で、まさしく私が抱えていた問題と同じ思いを抱いていることがわかりました。そして、コメディカルの問題を解決するために、コメディカルのサイトを作ることを提案していました。

 これが、メディッコとの出会いです。
 
 こうして、私は作業療法士としてメディッコの立ち上げメンバーとなり、多職種で、多職種連携を円滑にするためのプロジェクトに参画することになりました。

斎藤佑樹先生、編集者永井さんとの出会い

 もう一つ、本書の執筆の経緯に欠かせない縁があります。それは作業療法士の斎藤佑樹先生との出会いです。斎藤先生は、侍OTの通り名で先駆的に作業療法のブログで発信をしていました。私はそのブログを端から端まで読み尽くし、日々の臨床の向き合い方や患者さんへの言葉かけの大切さを学んだ恩師的な存在です。そんな斎藤先生と学会や研修会はたまたSNSで繋がるようになり、とある日、斎藤先生から出版会社との打ち合わせにご招待いただきました。
そこで本書の企画発案者である永井さんに出会います。本来は別の書籍の打ち合わせでしたが、斎藤先生のご厚意もあり、多職種連携に関する書籍の企画を提案させていただきました。実は永井さんは既に多職種連携の企画を考えており、こうして私たちメディッコの想いがカタチになる日がやってきたのです。
この場をお借りして、斎藤先生、編集者永井さんに厚く御礼を申し上げます。

メディッコが多職種連携のロールモデルになる

 メディッコは、多職種連携を促進するための知識や工夫、経験がつまったウェブサイトです。別々の施設、別々の職種、そして別々の地域で働く多職種が集まって、多職種連携を体現しながら、記事づくりをしています。メディッコには、「病院が違うから」「地域が違うから」「職種が違うから」と言って他人事にする人は1人もいません。違うことが当たり前で、違いの中にも自分に当てはまることが必ず少しあって、みんな自分事ととして捉えています。ここに、多職種連携の大切なことが凝縮されていると、私は思います。

そしてその答えは、本書に詰めておきました。

私はたくさんの人の力を借りて、本を書くという夢を叶えることができました。
これも、多職種連携の恩恵です。

須藤 誠

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