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ONE SIDE


自己紹介を兼ねて置いておきます。
すぐ読み終わる3分間ミステリー。なんなら1分かも。

sideAを読んだ後、一度「何がおかしいか」を考えてからsideBにいくとより楽しめると思います。

※他サイトにも同じ作品を投稿しています。

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sideA

「大地!ねぇ、アンタふざけてんの?ちょっと無理してでも、顔出しなさいよ!」

 耳元に受話器を当てた瞬間、放たれた大声に思わず受話器を落としそうになる。行けないってメールしたのを見てから僕に電話をかけるまでのその素早さには脱帽。あーあ、居留守決め込めばよかった。まぁ、後の祭りってやつ。イライラと動き回る彼女が目の前に見えて、精一杯ため息を飲み込んだ。今溜息なんてしてみろ、きっと次会った時重い一撃じゃ終わらない。

「別にふざけてなんかいないさ。」

 穏やかな声で返事をしたつもりだ。とりあえず来たる衝撃に備えて受話器を握り直す。

「ふざけてるわよ!仕方ないって言ったって、私の気持ちも考えて!?」

 ほら、さっきの5倍くらいの声量が僕を責め立てる。耳が痛い。

「悪かったって言ってるだろ? 風邪ひいちゃったんだから。不可抗力だよ。 」

 受話器の向こうにいるのが、今の彼女。付き合ってそろそろ1年くらいで、そこそこ仲は良好、だと思う。名前は沙織。それで、今まさに沙織のマンションに向かっている、というかマンション前にいるのが、前の彼女で今は友達。名前は心雪。
 心雪と別れる時、僕らは一番の友達でいることを約束した。……まぁ、いろいろあったんだよ。よくあるでしょ。ないかな。ともかく、一番の友達に結婚相手を紹介しないわけにはいかない。そういうことで、今日は来月僕と結婚することになった沙織を、心雪に紹介する予定だった。そう、予定「だった」のだけど。
 二人とも会うことに抵抗はないし、むしろ楽しみにしていた。けど、それはあくまでも僕が間に立つから。僕が風邪なんてひいて休むもんだから、沙織はたいそうイライラしているって話。確かに、沙織がイラつくのも仕方ない。相変わらず部屋を行ったり来たりしながら沙織が色々と文句を並べているのをぼんやりと聞き流していたら、耳元からチャイムの音がした。沙織の部屋に心雪がついたからだ。

「んもう、またね!来れそうなら来てよ!」

 と叫んで沙織は受話器を叩きつけた。走って玄関に向かう彼女にとりあえず心の中で頭を下げておく。許せ、風邪を恨んでくれ。



sideB

「いらっしゃい。」

 彼女の第一印象は、綺麗な方。初対面の沙織さんは、彼氏の元カノである私を笑顔で迎えてくれた。

「お邪魔します。あの、大地君は?」
「ああ、アイツ風邪ひいちゃって、二人になっちゃったの。ごめんね?」

 同級生である私と大地君より二つほど年上の彼女は、修羅場になってもおかしくないというのにとても穏やかだ。優しそうな人だなと場違いにも感心してしまう。

「この度はご結婚おめでとうございます。」
「ありがとう。あ、そうだ、招待状!ちょっと待ってね。」

 結婚式の招待状は手渡すから、と昨日の連絡でも伝えられた。招待状とは、おそらくそれだろう。

「あっれ、あいつどこ仕舞ったんだ?ごめん、電話かけていい?」
「はい、お気になさらず。」
「ありがと、なにからなにまでごめんね。」

 招待状が見つけられなかったらしく、沙織さんは慣れた手つきで電話のボタンを押す。

「大地?……ああいいよもう怒ってない。ごめん、心雪ちゃんに渡す招待状、今私から見てどのへんにある?」

 思わず、顔を上げた。私から見て、と聞こえたが。

「いやこの棚なのは分かってんの。どっち?……え?もー、今日あんた、どこから見てんの!?いつもの部屋だよね?」
「は……?」
「ああー、これ、ん、ありがとう。じゃーね。ふぅ。ごめんね、これこれ。」

 どういうことだろう。見ている?大地くんが?というか、これは聞いていい話なのか?

「ありがとうございます、えっと、あの……」
「ああ、もしかして電話?てっきり前からだと思ってたんだけど。」

 聞かれたという気まずさや戸惑いは一切ない。ニッコリと微笑んで沙織さんは私の前に腰掛けた。

「前から?」
「そ、前から。監視グセ、無かったの?」

 かんしぐせ……言葉として認識するのに数秒、受け入れるのにさらに数秒。そのあいだも沙織さんは変わらず笑顔で話し続ける。

「そっか、私からだったのね。良かったぁ、見られたくない子達どうしてたんだろって気になってたんだけど、私だけだったのね。」
「あ、の……それつまり、沙織さんは嫌じゃないってことですか?」

 ああ、声が擦れる。一体これは、この人達は何だろう。私、大地君のことを知らな過ぎたみたいだ。

「うん。だって盗聴されてるわけでもないし。やましいこともないし。むしろ生活態度改善されたわよぉ、好きな人に見られてると思えば。いいことの方が多いわ。」

 おもむろに立ち上がり、彼女は窓の前に立つ。

「大体、部屋のカーテン全部閉じれば覗かれることもないもの。やり方が原始的なのよねぇ。……ほら、あのマンションよ、彼が住んでいるの。」


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